「今、参ります」
リジュアが扉へと足を向けると、一対の足音がついてきた。
リジュアはドアノブに手を伸ばす前に、くるりと振り返る。
ルビンの鋭い碧眼と視線が交差した。
「断罪官様は、どちらに向かうおつもりで?」
「同席するって言っただろう。忘れたのか?」
「それは覚えていますわ。けれど許可した覚えがありません」
「お前の許可が必要なのか?」
「当たり前です」
「なら許可しろ」
「強引ですわ」
数秒間、リジュアとルビンは無言で見つめ合った。
昨日から至近距離でルビンを拝む機会に恵まれすぎているリジュアだったが、近づけば近づくほど欠点ひとつない造形美だと感心すらしてしまう。
どちらも強情なのか視線を逸らさない二人。
先に折れたのはリジュアだった。
「お好きになさったら」
深く息を吐きながら、ルビンに告げる。
どうせ、この男を止めることなど出来はしない。
白銀宮のエリート断罪官に目をつけられたのなら。
(この男が担当じゃなかったら、どうなっていたのかしら……)
納得したわけではなく諦めたリジュア。
「好きにさせてもらう」
この時、初めて常に無表情のルビンの美貌が不敵な笑みを浮かべたように見えた。
レイノルズ侯爵家の庭園は、春の花で彩られている。
色彩豊かな花々が咲き誇り、中央には白いガゼボが建てられていた。
いかにも華やかな令嬢のお茶会らしい光景。
リジュアが馬車を降りると、デイドレスの裾を揺らしながらカリナが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「リジュア様!」
すぐにリジュアはカリナの顔に違和感を覚える。
昨晩ほとんど眠れていないのだろう。
目の下が窪んでいるのか暗い。
可愛らしい顔立ちで笑顔を象っていても、いつものはつらつさが影を潜めている。
(ユウォン姉様もそうだった……)
周りに心配かけまいと、辛くても悲しくても常に笑っていた。
「カリナ様、お招きありがとうございます」
「急に申し訳ございませんでした。リジュア様にお越しいただけて嬉しいですわ」
リジュアを見て本当に安心したように笑うカリナ。
そして、リジュアの斜め後方に立っていたルビンを見るなり硬直した。
「え……? ルビン様?」
事態が呑み込めないのだろう。
招いたはずのない白銀宮の若き断罪官がこの場にいる。
「邪魔だったか?」
「い、いえ。とんでもないです」
カリナが慌てて首を振る。
「公務で同席させてもらう」
ルビンがカリナに伝える。
(カリナ様に説明するにしても、もう少し言葉を尽くしてほしいわ……)
リジュアは内心で突っ込む。
カリナも昨日の夜会の黒薔薇と白銀宮の断罪官のやり取りを目撃している。
カリナは困惑しながらも頷いていた。
三人はガゼボへと移動する。
侍女によりカップに紅茶が注がれ、洒落た菓子が丸テーブルに並ぶ。
春の穏やかな風が流れる優雅な時間。
本来そうであるはずだった。
「リジュア様、昨日は申し訳ありませんでした」
神妙な面持ちでカリナがリジュアに頭を下げた。
丸テーブルを囲む三脚の椅子は、それぞれ少しずつ間隔を空けて配置されている。
三人の視線は自然と中央で交わった。
リジュアは静かにカップを置く。
「何が、ですの?」
「わたくし、昨日の夜会でリジュア様に対して失礼なことを考えてしまいました……」
「失礼なこと?」
「リジュア様にエリオス様を奪われてしまうのかと」
社交界の黒薔薇が自分の婚約披露の場に現れたら、そう考えるのも不思議ではない。
あからさまにリジュアを敵視してきたわけでもないのに自ら謝罪するとはカリナの生真面目な性格がよく現れていた。
「でも、帰ってから違うのではないかと考えたんです」
「どうして、そう思われますの?」
「リジュア様は昨日の夜会で、わたくしに何かを伝えようとしていたのではないかと」
春風がガゼボを吹き抜けて、花びらが一枚テーブルへ落ちた。
(予想外だったわ……)
昨日のカリナの様子から察するに、カリナはエリオスに心酔している。
だからこそ盲目になっているとリジュアは踏んでいた。
しかし、カリナは顔つきの幼さとは違い、きちんと自分で状況を考えられる女性であった。
「カリナ様はエリオス様を愛していらっしゃるのですね?」
リジュアが優しい声色でカリナに微笑む。
カリナの顔が苦しげに歪む。
ずっと観察者に徹しているルビンはその反応を見逃さなかった。
「……はい……」
リジュアが扉へと足を向けると、一対の足音がついてきた。
リジュアはドアノブに手を伸ばす前に、くるりと振り返る。
ルビンの鋭い碧眼と視線が交差した。
「断罪官様は、どちらに向かうおつもりで?」
「同席するって言っただろう。忘れたのか?」
「それは覚えていますわ。けれど許可した覚えがありません」
「お前の許可が必要なのか?」
「当たり前です」
「なら許可しろ」
「強引ですわ」
数秒間、リジュアとルビンは無言で見つめ合った。
昨日から至近距離でルビンを拝む機会に恵まれすぎているリジュアだったが、近づけば近づくほど欠点ひとつない造形美だと感心すらしてしまう。
どちらも強情なのか視線を逸らさない二人。
先に折れたのはリジュアだった。
「お好きになさったら」
深く息を吐きながら、ルビンに告げる。
どうせ、この男を止めることなど出来はしない。
白銀宮のエリート断罪官に目をつけられたのなら。
(この男が担当じゃなかったら、どうなっていたのかしら……)
納得したわけではなく諦めたリジュア。
「好きにさせてもらう」
この時、初めて常に無表情のルビンの美貌が不敵な笑みを浮かべたように見えた。
レイノルズ侯爵家の庭園は、春の花で彩られている。
色彩豊かな花々が咲き誇り、中央には白いガゼボが建てられていた。
いかにも華やかな令嬢のお茶会らしい光景。
リジュアが馬車を降りると、デイドレスの裾を揺らしながらカリナが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「リジュア様!」
すぐにリジュアはカリナの顔に違和感を覚える。
昨晩ほとんど眠れていないのだろう。
目の下が窪んでいるのか暗い。
可愛らしい顔立ちで笑顔を象っていても、いつものはつらつさが影を潜めている。
(ユウォン姉様もそうだった……)
周りに心配かけまいと、辛くても悲しくても常に笑っていた。
「カリナ様、お招きありがとうございます」
「急に申し訳ございませんでした。リジュア様にお越しいただけて嬉しいですわ」
リジュアを見て本当に安心したように笑うカリナ。
そして、リジュアの斜め後方に立っていたルビンを見るなり硬直した。
「え……? ルビン様?」
事態が呑み込めないのだろう。
招いたはずのない白銀宮の若き断罪官がこの場にいる。
「邪魔だったか?」
「い、いえ。とんでもないです」
カリナが慌てて首を振る。
「公務で同席させてもらう」
ルビンがカリナに伝える。
(カリナ様に説明するにしても、もう少し言葉を尽くしてほしいわ……)
リジュアは内心で突っ込む。
カリナも昨日の夜会の黒薔薇と白銀宮の断罪官のやり取りを目撃している。
カリナは困惑しながらも頷いていた。
三人はガゼボへと移動する。
侍女によりカップに紅茶が注がれ、洒落た菓子が丸テーブルに並ぶ。
春の穏やかな風が流れる優雅な時間。
本来そうであるはずだった。
「リジュア様、昨日は申し訳ありませんでした」
神妙な面持ちでカリナがリジュアに頭を下げた。
丸テーブルを囲む三脚の椅子は、それぞれ少しずつ間隔を空けて配置されている。
三人の視線は自然と中央で交わった。
リジュアは静かにカップを置く。
「何が、ですの?」
「わたくし、昨日の夜会でリジュア様に対して失礼なことを考えてしまいました……」
「失礼なこと?」
「リジュア様にエリオス様を奪われてしまうのかと」
社交界の黒薔薇が自分の婚約披露の場に現れたら、そう考えるのも不思議ではない。
あからさまにリジュアを敵視してきたわけでもないのに自ら謝罪するとはカリナの生真面目な性格がよく現れていた。
「でも、帰ってから違うのではないかと考えたんです」
「どうして、そう思われますの?」
「リジュア様は昨日の夜会で、わたくしに何かを伝えようとしていたのではないかと」
春風がガゼボを吹き抜けて、花びらが一枚テーブルへ落ちた。
(予想外だったわ……)
昨日のカリナの様子から察するに、カリナはエリオスに心酔している。
だからこそ盲目になっているとリジュアは踏んでいた。
しかし、カリナは顔つきの幼さとは違い、きちんと自分で状況を考えられる女性であった。
「カリナ様はエリオス様を愛していらっしゃるのですね?」
リジュアが優しい声色でカリナに微笑む。
カリナの顔が苦しげに歪む。
ずっと観察者に徹しているルビンはその反応を見逃さなかった。
「……はい……」



