***
リジュアが応接室に入ると、ルビンは窓際に立っていた。
白銀の詰襟制服に同色の外套を肩から流すように纏っている。
胸元には白銀宮を示す天秤のエンブレム。
腰には儀礼剣。
唯一、黒い手袋。
白銀宮の正装が似合いすぎる綺麗な男。
差し込む陽光がホワイトブロンドの髪を淡く返し、まるで絵画のような光景だった。
(一刻も早く帰らせるわ)
リジュアは心の底で嘆息する。
気の抜けない面倒な相手――それがルビンへの率直な感想だった。
「お待たせいたしました」
リジュアは内心を包み隠し、社交界の黒薔薇の仮面をかぶる。
男たちが欲望にかられる悪女の微笑。
けれど、ルビンは冷たい視線を寄越しただけだった。
「待ってはいない」
「なら良かったですわ」
相変わらず社交辞令を無視する男だ。
「本日はどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか?」
「お前の調査だ」
ルビンが直球すぎて、リジュアは一瞬だけ言葉に詰まる。
「昨日もそう仰っていましたわね」
「だから来た」
ルビンが余計な言葉を削りすぎるせいで、会話が成立しているのかわからなくなる。
「わたくし今からお茶会に呼ばれておりまして」
「誰と――だ」
「断罪官様はわたくしのプライバシーを侵害したいのですか? 年頃のレディに対して失礼でいらっしゃるかと」
ルビンは数秒、沈黙する。
リジュアに対して自分が失礼なのかどうか実際に考えているのかもしれない。
「そうかもしれないな」
存外に素直なルビンの回答に、リジュアは調子が狂わされた。
普通の男なら、ごまかして自分を良く見せようとする。
取り繕って、器の大きな男アピールをする。
ルビンにはそれがない。
常にストレートで、無駄な装飾がない。
(素材が抜群に優れすぎているから、飾る必要性がないのかもしれないけれど……)
だからこそ読みづらいし、隙がなかった。
「――カリナ・レイノルズ様です」
得体のしれない罪悪感に支配され、リジュアは自ら告げた。
(この男の捜査に、わたくしが自ら協力する必要もないのに……)
どうせ調べればすぐにわかることで隠している意味もなかった。
リジュアの回答を聞いたルビンは双眸を細める。
「その名は昨日の婚約者の女だろう」
「ええ」
「なぜ、お前に会う」
もっともな質問だった。
「昨日、黒薔薇が夜会に現れたことで、レイノルズ侯爵令嬢を不安にさせたように見えた」
「そうかしら」
「普通は避ける」
「……」
「だが、彼女は昨日の今日で招待して会おうとしているのか?」
これも、ごもっともな疑問だった。
リジュアの繕った嘘はルビンに通用しそうにない。
(この男はやりにくい……)
「黙秘しますわ」
桃色の艶やかな唇に人差し指を当て、蠱惑的に微笑むリジュア。
これをすれば、ほぼ全ての男がリジュアに誘い込まれる。
クールで何を考えているのか不明な断罪官に、はまらないだろうことは知っていた。
「俺も同席する」
表情ひとつ変えないまま、ルビンが告げる。
「は……?」
思わずリジュアの本音が漏れ出る。
(いけない。はしたないわ)
「お前は調査対象だ。当たり前だろう」
真顔で宣うルビンに生まれて初めて誰かを追い返してやりたい気持ちに駆られた。
しかしリジュアは努めて冷静に振る舞う。
「断罪官様」
「何だ」
「女性同士のお茶会ですのよ」
「ああ」
「そこに断罪官様が立ち入られるのですか?」
「ああ」
まるで「何がおかしい?」とでも言いたげな不遜なルビンの態度。
「急に断罪官様が現れて、カリナ様がどう思われるか考えました?」
「考えた」
全て即答だ。
「それで?」
「不自然だ」
「何がですの?」
「レイノルズ侯爵令嬢と社交界の黒薔薇が秘密裏に会おうとしていることが」
「秘密裏だとおわかりで?」
「マッコード公爵令息は知らないのだろう」
どこまでも鋭い男だとリジュアは嫌な予感を覚えた。
「本当に面倒な方ですわ……」
リジュアの心の声が駄々洩れだった。
いつもは巧みに黒薔薇を演じられる。
それがどうも、この白銀宮の最年少断罪官には自分の素が露呈してしまう怖さを感じていた。
「――よく言われる」
リジュアは思わず吹き出しそうになった。
(誰に言われているのかしら……)
そこまで考えたところで、リジュアはルビン個人に興味を抱いていることを思い知る。
その時、応接室の扉が叩かれた。
「リジュアお嬢様」
先ほどもリジュアを呼びに来た執事の男だった。
「馬車の用意が出来ました」
リジュアが応接室に入ると、ルビンは窓際に立っていた。
白銀の詰襟制服に同色の外套を肩から流すように纏っている。
胸元には白銀宮を示す天秤のエンブレム。
腰には儀礼剣。
唯一、黒い手袋。
白銀宮の正装が似合いすぎる綺麗な男。
差し込む陽光がホワイトブロンドの髪を淡く返し、まるで絵画のような光景だった。
(一刻も早く帰らせるわ)
リジュアは心の底で嘆息する。
気の抜けない面倒な相手――それがルビンへの率直な感想だった。
「お待たせいたしました」
リジュアは内心を包み隠し、社交界の黒薔薇の仮面をかぶる。
男たちが欲望にかられる悪女の微笑。
けれど、ルビンは冷たい視線を寄越しただけだった。
「待ってはいない」
「なら良かったですわ」
相変わらず社交辞令を無視する男だ。
「本日はどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか?」
「お前の調査だ」
ルビンが直球すぎて、リジュアは一瞬だけ言葉に詰まる。
「昨日もそう仰っていましたわね」
「だから来た」
ルビンが余計な言葉を削りすぎるせいで、会話が成立しているのかわからなくなる。
「わたくし今からお茶会に呼ばれておりまして」
「誰と――だ」
「断罪官様はわたくしのプライバシーを侵害したいのですか? 年頃のレディに対して失礼でいらっしゃるかと」
ルビンは数秒、沈黙する。
リジュアに対して自分が失礼なのかどうか実際に考えているのかもしれない。
「そうかもしれないな」
存外に素直なルビンの回答に、リジュアは調子が狂わされた。
普通の男なら、ごまかして自分を良く見せようとする。
取り繕って、器の大きな男アピールをする。
ルビンにはそれがない。
常にストレートで、無駄な装飾がない。
(素材が抜群に優れすぎているから、飾る必要性がないのかもしれないけれど……)
だからこそ読みづらいし、隙がなかった。
「――カリナ・レイノルズ様です」
得体のしれない罪悪感に支配され、リジュアは自ら告げた。
(この男の捜査に、わたくしが自ら協力する必要もないのに……)
どうせ調べればすぐにわかることで隠している意味もなかった。
リジュアの回答を聞いたルビンは双眸を細める。
「その名は昨日の婚約者の女だろう」
「ええ」
「なぜ、お前に会う」
もっともな質問だった。
「昨日、黒薔薇が夜会に現れたことで、レイノルズ侯爵令嬢を不安にさせたように見えた」
「そうかしら」
「普通は避ける」
「……」
「だが、彼女は昨日の今日で招待して会おうとしているのか?」
これも、ごもっともな疑問だった。
リジュアの繕った嘘はルビンに通用しそうにない。
(この男はやりにくい……)
「黙秘しますわ」
桃色の艶やかな唇に人差し指を当て、蠱惑的に微笑むリジュア。
これをすれば、ほぼ全ての男がリジュアに誘い込まれる。
クールで何を考えているのか不明な断罪官に、はまらないだろうことは知っていた。
「俺も同席する」
表情ひとつ変えないまま、ルビンが告げる。
「は……?」
思わずリジュアの本音が漏れ出る。
(いけない。はしたないわ)
「お前は調査対象だ。当たり前だろう」
真顔で宣うルビンに生まれて初めて誰かを追い返してやりたい気持ちに駆られた。
しかしリジュアは努めて冷静に振る舞う。
「断罪官様」
「何だ」
「女性同士のお茶会ですのよ」
「ああ」
「そこに断罪官様が立ち入られるのですか?」
「ああ」
まるで「何がおかしい?」とでも言いたげな不遜なルビンの態度。
「急に断罪官様が現れて、カリナ様がどう思われるか考えました?」
「考えた」
全て即答だ。
「それで?」
「不自然だ」
「何がですの?」
「レイノルズ侯爵令嬢と社交界の黒薔薇が秘密裏に会おうとしていることが」
「秘密裏だとおわかりで?」
「マッコード公爵令息は知らないのだろう」
どこまでも鋭い男だとリジュアは嫌な予感を覚えた。
「本当に面倒な方ですわ……」
リジュアの心の声が駄々洩れだった。
いつもは巧みに黒薔薇を演じられる。
それがどうも、この白銀宮の最年少断罪官には自分の素が露呈してしまう怖さを感じていた。
「――よく言われる」
リジュアは思わず吹き出しそうになった。
(誰に言われているのかしら……)
そこまで考えたところで、リジュアはルビン個人に興味を抱いていることを思い知る。
その時、応接室の扉が叩かれた。
「リジュアお嬢様」
先ほどもリジュアを呼びに来た執事の男だった。
「馬車の用意が出来ました」



