青信号は変わらない

 今日は、一時間早く家を出ることにした。猛が玄関に迎えに来てくれて、一旦猛のお家に行き、一メートルも離れているのだけれど、おばさんと朝食。
「おはようございます、いつも、ありがとうございます」
「藍、猛、コーヒー? 牛乳?」
「私は、牛乳で、猛は、コーヒーよね?」
「はい、はい、待っていてね、先に食べていて頂戴ね」
 おばさんが、牛乳とコーヒーを運んでくれた。すぐに口にした。
「ありがとうございます。ところで、猛、私さー、なんか『ダークブルー』って呼ばれているみたいなのだけれど、何なのかしら?」
 猛は『ブゥー』とコーヒーを吹き出して、まったく、汚いな、私が布巾で拭いた。
「気にするなよ、藍、みんなが認めてくれたという事だ」
「そうよね、正義の味方は、間違っていないのよ、藍だから、ブルーなのね? どうして、ダークなのかしら?」
 猛は、再度……もう、まったく汚いな、布巾洗ってこないと、テーブルを拭いて
「あれだ、チョコレート! 甘い、青」
 猛は、頭を何度も、上下に頷き、
「その通り、チョコレート……それは、ダースだろ? いや、良いのだ、良いのだよ、藍、間違っていない、甘いチョコレートのようなブルー」
「でも、青いチョコレートって何かしら? お店で売っているのかしら?」
 猛は、ゆっくりと目をつぶってから
「ほら、今日は早く学校に行くと言っていただろう、そろそろ出ないと、藍、その話はまた、後で」
「おばさん、行ってきまーす」

 スマートフォンで、『ダークブルーチョコレートを探すと』私は、驚いた! そこに表示されたのは、猛の前に出て、スマートフォンの画面を両目を覆うように差し出した。
「すごいじゃない、私、宝石なんだって、もう、初めから、言ってよね、猛もわかっていたのなら、まったくもったいぶっちゃって」
「お、おう」
 猛は、少しだけ、下を向きながら、顔を左に向けて、『クスっ』と笑った気がした。そしてスマートフォンに謝っているような、感謝しているような、不思議な仕草を見せた、私はそのような事は気にしないで、学校に向かった。

――今朝早く学校に着いたこともあり、誰にも遭遇することがなく、一日の授業はすんなりと終わった。終わったはずだった……。

「あれ? どうして、一人で掃除しているの? 当番の男子生徒は?」
 眼鏡の女子生徒が一人で、放課後掃除をしていた。
「男子当番はどこにいったの?」
「部活なのかな、任せたと言って、帰ってしまったの」
「ったくぅ、掃除終わってからでも、部活には行けるのに、私も手伝うね」
「へーい、へ――い」
「返事は、何度いったらわかるかしら、一回」
「へ――――――ーい」
「はい でしょう!」
 手際のよい、猛、机を一列に寄せて纏め、一気に掃除、揃えるのも、ミリ単位もずれずに、殆ど猛一人で掃除を終えてしまった。私達は、本棚と花瓶くらいしか、やる事が無かった。
「明日、覚えておきなさいよ! 男子ども」

――翌朝も、一時間早く登校した、訳ありである、あの男性共をとっちめないと! そのため、誰よりも早く教室に着席。綺麗に整っている机、椅子。窓から男子生徒達が騒いでいるのが、見えた。
 男子生徒達が教室に入ると、私はゆっくりと立ち上がる『ダークブルーだ』と聞こえたが、そのまま入り口に向かい
「あなた達ね、昨日掃除当番だったのでしょう、一人に任せきりじゃ、ダメでしょう、謝りなさい」
「だってよ、俺ら部活あるし、あいつは一人だろ、だからさー」
「言い訳になっていない! 今日も掃除するのよ、そして、謝りなさい」
「くそが、ダークブルー」

 男子生徒達の一人が教室を飛び出して、廊下を走って、逃げ出してしまった。私は、カチンときてしまい、教室を出て、追いかけるていった。逃げていく男子生徒を追いかけ、私も階段を駆け上がっていく。しかし、なかなか追いつかない。『はぁはぁ』息があがる、私も階段をかけあがっていくと、焦りから最後の一段で――あれ? あ? 階段を踏み外して、ふわーと体全体が後方へ、視界に入るのは、階段の天井、え? もしかして、これ、頭から、階段の下まで、落ちちゃうのでは え?
「え? 落ちる?」
 すると、両手が優しく出て来きた。
「走るなと注意して、走ったら、だめじゃね?」
「猛、遅い!」
(助かった、ありがとう猛、声には出さないけれどね)
「教室に戻っていろ、藍」
 猛は、階段の壁を人差し指で、三回、「トン、トン、トン」と間の空いた音。いつもの、動作。私は猛の意味がわかったので、素直に
「わかった、戻るね」
 ゆっくりと廊下を歩いていると、小さな声が耳に入った。

「痛い、動けねー」
「金魚の糞、お前、何者だ?」
「一メートル後の影、行くぞ」
「痛いって」
 だんだんと、音が私の方に大きくなっていった。教室に戻ると、さらに、音は大きくなる。
 ズル、ズルと廊下を引きずる音がしてきた、だんだんと近づいてくる。
「藍、ほら、これ……」
 猛は、片手で、男子生徒の襟を引きずり、私の前に連れてきた。眼鏡の子の前に、片手で引きずってこられた、男子生徒は、明らかに、何かに、怯えているように感じた。私は、上から覗き込んで
「あなた、わかっているのかしら?」
「もうしません、ごめんなさい」
「謝るのはは、私ではない!」
「ダークブルーこえー……すいませんでした」
 どうして男子生徒、私だけではなく、猛を見る目も、怯えているように見えるのかしら?
「猛? 何したの?」
「なにも、してないよ、連れてきただけ」


 ――男子生徒達は、放課後、隅々まで掃除を丁寧にしていた、私と猛はそれを見届けてから
「じゃー、帰ろうかね?」
 珍しく、猛から、声が出ていた。