青信号は変わらない

 相変わらず、朝の突撃告白は変わらず、更新される記録は軽く二桁に、なっていた。朝のイライラ感は今始まったことではない、通学時間を早めるのが正解だったかな、今日も空には雲が……少し風が強く冷たく感じる。
 木の葉が揺れているを見つめながら、思い出す、中学校一年生の時からであるが、世の中馬鹿なのかしら、毎度毎度の告白、私の魅力に釣り合う人なんているわけがない。しいて言うなら、尊敬する正義の味方、お父さんただ一人。階段をあがる一歩、一歩に力が入り、教室が近づくについれて、廊下の生徒が距離を取って、モーセの十戒のように道が出来ていた。
 ちゃんとついてきているのかしら、
 少しだけ顔を下げて、右目を目じりに寄せて、首だけを後ろに回すと、一メートルの距離を保ち、だるそうな猛が二つのカバンを持っていた。

「おはようございます」
 教室は、私が中に入ると、騒がしさが一旦止まったかのように、思えたが、気にせず振り向きもせず、左手だけを後ろに伸ばし、カバンを受け取り、右手で椅子を引いて、席に着く。窓際の私は涼やかな風を感じながら、右手を顎に乗せて雲の数を数えていた。
 私が着席して、外を眺めているせいであろうか、教室の入り口付近で、ざわざわとしている声が耳に着く。
『とろい』明らかに、男の子の声だ。雲いくつまで数えたのか忘れてしまった……立ち上がり、窓に手を伸ばして、締めるとカーテンの動きは止まり、袖を歩いて、教室の入り口に顎をつきだすようにして、歩いて行った。
 男子生徒数人が、一人の女子生徒の席を囲んで、明らかに、馬鹿にしている内容であった。

「お前、トロイんだよ、なんだよその、ぐるぐる眼鏡、漫画か? 眼鏡かけても、見えてないじゃないか? ブスが」
 女子生徒の机に、手を置いて、顔を近づけて言い放つ男子生徒。他の男子生徒も立って笑っている、私の事は気が付いていない様子である。女子生徒の机まで来て、両手を肩の高さから、一気に、振り下ろした
『バン!』
 目の前の男子生徒に、私は眉をひそめて、やや左に顔を傾けながら
「なんですって、もう1度言ってみなさい、え? なに? 容姿に対して、文句言える顔をあなたは、しているのかしら? 謝りなさい!」
「え、だってよー、プリント配るのが、おせーじゃないか? ぐるぐる眼鏡じゃまなんじゃねーかと思ってよー、とってやろうと……」
 言い放った男子生徒の視線が、私の瞳に映り込んだとき『やべぇ』と声が。ネクタイを引っ張ってやろうかと思った、その時に、机を軽く三回指で叩く一定の音が耳に入ったので、止めて、男子生徒に面と向かって
「容姿は、関係ない、謝りなさい」

「す、すいませんでした」
 男子生徒は肩を縮こませながら、深々と私に頭を下げて
「私に謝るのではない、彼女に謝りなさい」

「申し訳ありませんでした」
 男子生徒達は、その場から強引に逃げようとしたせいもあり、椅子に足をひっかけて、『ドスン』と転んでしまった。他の生徒も、小声で『こえー』と言っているのが、耳を汚した。
 馬鹿にされた女子高生は、顔をあげて
「ありがとうございます。大丈夫です。慣れていますから……」
「慣れの問題ではないのですよ。困ったことがあったら、すぐに私に話してくださいね」

 他の女子生徒からは、尊敬のまなざしで、「藍さん、すごい、カッコイイ」等の声が聞こえていた。

――休み時間になり
 窓側の私は、教科書とノートを閉じると、教室の入り口が騒がしく、首だけ廊下側に向けると、先程の男子生徒達が一斉に、廊下に出て行って走り出していた。
「痛えー あぶねーだろう?」
 バラバラと宙を舞う、プリントが風に乗ってふわふわと何十枚も泳いでいるのが目につき、私は、またかと、椅子を引いて、廊下に一直線で走り出し、お腹の底から
「待ちなさい、男子 先生のプリント拾いなさい!」
 先生も、腰を下ろして、一枚一枚プリントを集めようとしていたので
「先生、やる必要ありません、あの子たちに拾わせます。おたちください」
 自然と歯を食いしばっているのがわかった、二度目、
「プリントを拾って、揃えたら、先生に謝るように、廊下は走るな、わかったかしら?」
「す、すいませんでした」
 後ろにいた数名の男子生徒も、プリントを拾いながら、『こえぇー』『ダークブルー』『ダークブルーこえー』と声が聞こえたが、私は先生にも
「先生、ダメな事は、ダメ、しっかり注意してくださいね、わかりましたでしょうか?」
「あ! はい。ありがとう、藍さん」
 先生は、私の手を握り、その握った手は、少し震えていた。私? 私の事で震えているのかしら? 違うわよね? 男子生徒が先生とぶつかったからだよね、かわいそうな、先生
「先生、困ったことがありましたら、私に言ってくださいね」
 先生の瞳は、どうしてだろうか、潤んでいるように見えた。
 教室の女子生徒からは、
「藍さん、カッコイイ! 頼もしい、素敵!」
 猛がいない、あれ? 一メートル、後ろを振り返っても、いない? どこいったの、猛……いた、猛は私の机で次の授業の準備をしてくれていた。丁度その時チャイムが鳴ったのであった。

 休み時間になると、どこからか、私を指さして、『ダークブルー』という言葉が、耳に着くようになった。男子生徒達である。『ダークブルー』何のことかしら? どうでもよいのだけれど。私が立ち上がると、男子生徒は静まり返る、不思議。もう1度座ると、話しだしていた『ダークブルーこえー』と聞こえた。猛に視線を向けると、次の授業の教科書を読んでいるようであった。何かノートに書いているようにも見えた。猛のところにいこうかなと思った時にチャイムが鳴ってしまい、今日の授業は終了した。