龍の番に選ばれて

科学万能のこの時代にも、人の(ことわり)を超える存在というものがある。

一晩で家を飲み込む巨大な(たこ)
山で人をさらう、牛の頭をした少女。
湖に潜む、八つ目の魔物。

そうした化け物――怪異に対抗する力を持つのが、陰陽師と呼ばれる術師たちだ。

彼らは生まれ持った異能の力を研ぎ澄まし、平安の昔から人の世を守ってきた英雄。
市民の信頼は厚く、政財界と太いパイプを持つ家系も多い。

この国では、術師として生まれることはもちろん、術師を縁者に持つことすらも、大きなステータスとされているのだ。

そして今――ある話題が、京都の街を密かに騒がせていた。

水無瀬(みなせ)の新当主が、嫁を探している――」

水無瀬といえば、陰陽道の聖地・京都を守護する筆頭五名家の一つ。
その新当主である(かおる)は若干22歳にして当代最強の呼び声高く、おまけに目の覚めるような美青年と評判だった。
そんな超優良物件が婚活を初めるとなれば、大争奪戦が繰り広げられること必至である。

口さがない者達が噂する。 

金森(かなもり)の娘だろう。器量がいいし、力も申し分ない」
「いやいや、土御門(つちみかど)の分家の娘もなかなかの美しさで……」
「いずれにせよ、ある程度名の知れた家が相手でしょう。いろいろ体裁もあるし」

水無瀬の御曹司は、いったい誰を伴侶に選ぶのか?
いったい、どんな優秀な娘が選ばれるのだろう。

――しかし、予想外なことに。

薫が選んだのは、まだ術師とすら言えない、全く無名の少女だった。