自慢じゃないが、素人が勢いで撮るホラーほど間抜けに見えるものはない。
今の映像もそうだ。衣装の乱れで撮影が止まる白装束の女なんて、怖い以前の問題である。
「──つうかさ、これこのままコメディにした方がインパクトあるんじゃねえの?」
泥まみれの野球ユニフォーム姿で、がたいのいい坊主頭のガッツが、僕の肩に腕を回した。
「ガッツ!」
百合子がかなみの頭を乾かしながら声を荒げる。
「だって全然怖くねーよ。インパクトのいの字もない」
彼の評価は大抵、的を射ていた。
「まあ、演技はよかったと思う。特に東」
僕ですか、ガッツさん。
「おう。表情がわざとらしくねえし、役に入ってた。でもよ」
ガッツは、しょうもないものを見るように僕らを見回した。
「学校でなんで着物の女なんだよ。背景が学校なら制服の方が自然だろ。あと、スマホ取ったあと知らない番号に出るのも変だ。普通は出ねえ。家から戻ってくるところも長いし、そこはカットでいい。てかスマホなんて明日でいいだろ」
総評すると、狙っている感じが強すぎる、だそうだ。
僕もそう思った。役に入りきっていたから気にしなかったが、冷静に考えればスマホなんて明日でいい。
ただ、怖がる演技だけは妙に体に馴染んでいた。
自分でも、少し嫌になるくらいに。
左門と斜丸は椅子に沈み、百合子は悔しそうに唇を噛み、垂瓦とかなみは「ホラーって難しい」と頭を抱えた。
軽い反省会を終えた僕らは、荷物をまとめて寝床代わりの視聴覚室へ戻ることにした。
ガッツの容赦ないダメ出しによって、今回の脚本はボツ。同時に、僕が演じた臆病な眼鏡の男子生徒──村瀬孝太郎も、お役御免となった。
僕は眼鏡とともに孝太郎の皮を脱ぎ捨て、彼に別れを告げる。
さようなら、コウタロウ。安らかに眠れ──。
この学校は過疎化対策として数年前に大幅改装されたらしく、田舎町には似合わないほど新しい設備が揃っていた。けれど、その新しさを目当てに外から編入してくる生徒はほとんどおらず、町おこしのための改装工事は税金の無駄遣いだったと、大人たちが度々話題にしていた。
別館にはシャワー付きの宿泊室がある。だが、夏休み中は運動部の合宿が優先され、少数の映画部はいつもの活動拠点である視聴覚室で寝泊まりすることになった。
布団と枕だけは借りられたので、居心地はそこまで悪くない。女子と男子の間に仕切り板を立てれば、なんとか合宿らしい形にはなる。
「ガッツ先輩、今夜は野球部の方に戻らないんですか?」
コンビニのカップラーメンを啜る左門に問われ、ガッツはおにぎり三個目を頬張りながら答えた。
「んあ? 明け方戻るわ。明日も普通に練習あるからな」
「げえ、ここにいるの? 戻ればいいのに……」
「そんな顔しちゃダメだよ百合子。一応西川君、野球部掛け持ちながら、うちらに付き合ってくれてるんだから」
仕切り板の向こうで百合子が嫌そうな顔をする。苦笑するかなみ。肩を竦める垂瓦。こちら側では斜丸がポップコーンの袋を抱え、大型スクリーンを指差していた。
「ちょっと皆さん、今クライマックスですよ! ちゃんと見てるんですか!?」
映っているのは、日本の代表的なオカルトホラー映画だった。井戸、長い黒髪、画面の奥から這い出てくる女の有名なやつだ。
普通なら悲鳴が上がる場面なのだろう。けれど、春から何十本ものホラーを研究として観続けた僕らは、いつの間にか怖がるよりも先に、撮り方やタイミングを気にするようになっていた。
「髪、やっぱ長い方が怖いのかな」
「水の音って大事っすよね」
「ビデオテープって今だと逆に新鮮じゃないですか?」
「やっぱり私も、顔白く塗るべきかなあ」
「なにで?」
「絵の具……とか?」
かなみの発言に、緊張していた空気が一気に緩んだ。
「絵の具かよッ!」
「やめた方がいいですよ、かなみ先輩お肌荒れちゃいますよ!」
「でも、幽霊って白い顔の印象が強いし……」
本人は真面目だった。だから余計にみんな笑った。
「役作りは大事なんです!」
拗ねたかなみを、百合子と垂瓦が宥めに回る。こちら側では、ガッツが呆れた顔でスクリーンを眺めていた。
「つうかさあ、髪の長い女とか白い着物だとか、ありがちで怖くねえよ。何番煎じだよ」
ガッツの言葉には一理あった。
恐怖シーンまでの長い引き。突然の大音量。水の気配。白装束や赤い服。髪の長い女。情報は集まっている。けれど、それらを足していけば必ずしも怖くなるとは限らない。
むしろ僕らの脚本は、既出作品の良いところを拾いすぎて、回を増すごとに脂ぎっていく感があった。
「確かに……考えてみると、固定観念に囚われてる気もしないでもないっす」
左門と斜丸がうんうん頷く。
「じゃあ、どうすればいいってのよ」
百合子が不服そうに言った。
