頷いて、改めて久しぶりだと言い直す。
すると垂瓦は、燃え上がらせていた態度を改め、行儀よく頭を下げた。
「おひさし、ぶりです……。すいません、出会い頭にこんな。百合子先輩から、来るって聞かされてなかったから」
「おい、なんだよその東だけ特別な態度」
「だって五年ぶりですから」
納得いかないと口を尖らすガッツへのフォローは後回しにして、僕は百合子がこうなった経緯を垂瓦に説明した。
「……そうだったんですか」
「垂瓦、お前、先に俺に言うことねぇの」
「すいません。開口一番失礼でした」
「一番どころか二番も三番も失礼だったぞ」
冗談交じりに言うガッツに、垂瓦はぷいとそっぽを向いた。
かつての百合子とガッツのやり取りを、少しだけ思い出す。
「百合子先輩、大丈夫ですか。立てますか……」
膝を抱えたままの百合子の背中をさすりながら、垂瓦が声をかける。
「か、なみ……ぃ」
聞こえているのかいないのか、百合子は涙声でそれだけを漏らした。
さっきから、彼女はもうそれしか言わない。
「あいたいよぉ、あいたい……ッ。謝りたい、かなみに……ごめんってぇ……」
「百合子先輩、もういいんですよ。もう、自分で自分を苦しめないでください。帰って薬飲みましょう、ね。そうすれば少し楽になりますから……」
垂瓦は、自分も辛そうな声で百合子を抱きしめ、立ち上がらせようとする。
後で彼女から聞いた話だが、百合子は五年前の出来事をきっかけにパニック発作を起こすようになり、今も精神科に通っているらしい。
薬の欠かせない生活、食も細くなり、かつての喧しさが嘘のように弱った百合子を、垂瓦がルームメイトとして支えているのだそうだ。
正直、さっきの言動には少し引いてしまったが。取り乱した拍子にめくれたカーディガンの袖から、何重にも包帯が巻かれた右手首を見てしまったら。
五年前からずっと苦しみ続けている彼女に、同情しないわけにもいかなかった。
「どうするよ、垂瓦。俺、百合子の車運転して送ろうか」
「そうですね。それが一番いいかもです。じゃあ、自転車は置いていかないと」
「悪いな。最初からそうすればよかった。垂瓦がいれば、少しは戻ると思ったんだよ……」
「いいんです。もう慣れてますから」
「ほんとすまねぇな。ルームシェアだって、お前、彼氏できたんだろ。ほんとはそっち行きたいだろうに」
「いいんです。これが、わたしなりの責任の取り方ですから……。西川先輩こそ、百合子先輩に仕掛けなくていいんです? いつまでタイミング見計らってるつもりですか。東先輩も帰って来ちゃったのに、ますます不利ですよ」
え。
「こら、垂瓦!」
ああ。わかった。
なるほどね。うんうん。
「おい東、誤解するなよ」
誤解って、なにがだい。
「だから、俺は別に……」
いいんだよガッツ。
君は昔から、見かけによらず一途な奴だったさ。
「だから! おま、それが誤解だって!」
「そんなことより、そろそろ帰りましょうよ。ほら、百合子先輩も、涙拭いてください」
「垂瓦! お前が言い出したくせに、そんなことって!」
取り乱すガッツを無視して、垂瓦は座り込んだ百合子を起こそうとする。
「やっぱり、かなみに会いたいよぉ」
百合子は目元を真っ赤にして立ち上がるも、垂瓦に抱きつき、何度目かわからない言葉を吐いた。

