荊棘―おどろ―

 とはいえ、寝る前にあんな映像を見せられて、すぐ眠れる者など誰一人いなかった。
 全員が、意味もなく布団の中で寝返りを繰り返している。

「あの──右京先輩。いいすか、聞いても」
「なに、左門君。ちょっとうとうとしかけてたのに」
「あ……すいませんっす」
「なあに」

 暗闇の中で、左門がぽつりと百合子に話しかける。
 たぶん、全員が聞き耳を立てていた。

「あの……もし。あのテープの話、作り直すことになったら」
「いいのよ、その話はもう」
「じゃなくて、もし。もしっすよ。作り直そうってなったら、右京先輩、脚本あれ、続き書けます?」
「そりゃあ……そうなったら書くわよ。書く気はあるわ」

 これでも脚本担当ですものと、百合子は澄ました声で返す。

「じゃあ。オレも、賛成するっす……」

 左門が天井に向かってとんでもないことを言い出したものだから、斜め前と隣の布団がびくりと動く。
 斜丸と垂瓦だ。

「どういう心境の変化よ」

 隣の布団から、ガッツが眠たげな声で尋ねる。

「正直、気持ち悪すぎるっすよ、あんなの。でも、よくよく考えたら本物じゃないんだろうなって思えてきたっすし。ガッツ先輩や右京先輩の言うこともわかります。普通の感性で作ったものなんて、コンクールじゃ埋もれると思うんす。心臓を鷲掴みにするくらいの衝撃っていったら、あれぐらいなのかなって……だから、その」

 やるんなら、手伝うっす。

 左門がそう言うと、今度は垂瓦が小さく息を吸う。

「左門先輩もそう言うんなら、じゃあ、わたしも……やってもいいです」
「垂ちゃん。いいのよ、無理しなくても」
「このままやっても、夏休みが終わっちゃう気もしますし。先輩たちは最後の夏だから、だったらドーンと強烈なの作って、それで入賞できたらすごくいいじゃないですか。だから、わたしもやります」

 少し照れたように、垂瓦は続けた。

「それに、百合子先輩もかなみ先輩もいなくなっちゃって、来年からは女子一人になっちゃうかもですから。思い出、作りたいんです」
「垂ちゃんっ、うう! なんて良い子!」
「引退しても遊びに来るから、そんな寂しいこと言わないで!」

 間に挟まれた垂瓦が、百合子とかなみに抱きつかれて笑い声を上げる。

「こら女子ィ! あんま騒ぐな、怒られんぞ……ったく。あーあ、ほぼ決まりかけてるぞ。どーするよ斜丸」
「どうするったって……おれにこの状況覆せって言うんですかぁ。さすがに多数決には勝てないですよ……ねえ、東先輩」

 斜丸はこちらを見る。

 ごめん、笑ってやることしかできない。
 最初から、争う選択肢はこちらにはない。

「ですよねえ……あー、非常に不本意だ。って言っても、おれだけ船に乗らないわけにもいかないしなぁ。もう、皆さんにお任せします。はあー、遠山先生が帰ってきたら卒倒しちゃいますよ」

 気のない返事をしつつも、最終的に斜丸が折れたことで、翌日からの方針は固まった。

 謎多きビデオテープの衝撃的な内容を、自分たちの手で新たに作り変える。

 なんとも無謀な計画だった。

 うまくいったとしても、世間に胸を張れるものではない。
 自分たちのアイディアではなく、名も知らない他人の、それも未完成の作品に手を出すのだから。

 それでも僕らは、綺麗とは言えない吊り橋へ足を踏み出す。

 このままでは、何も残せず夏休みが終わってしまう。
 実績のほとんどない映画部は、後輩たちの代で今度こそ廃部になるかもしれない。

 だから僕らには、どうしても“衝撃”が必要だった。
 良くも悪くも、映画部はとんでもないものを作ったのだという証を残したかった。

 けれど、そのがむしゃらな気持ちの中には、火遊びのような興味も確かに混じっている。

 大勢がよしとしないもの。
 触れてはいけないと言われるほど、覗きたくなるもの。

 そういう背徳的なものへの興味が、少なからずあったのだ。

 中学生の僕たちは、まだ社会の厳しさを知らない。
 危険予測も充分ではなく、何かあっても大人がなんとかしてくれるだろうという甘えも、心の奥底にあった。

 楽観的で、無知で、無謀な──僕たちは子供だった。