荊棘―おどろ―

 
 *  *  *


 あの夜。百合子は震える声で言った。

 ありえない思いつきを。
 どこか高揚し、危ない橋を渡ろうとするような顔つきで。

「いや、……もとにしてって、右京先輩、どういう」
「そのまんまの意味」
「そのまんま……って、この、これをですか?」

 問い質《ただ》した左門と斜丸は、驚ききった顔で百合子を見ていた。

 それは二人だけじゃない。
 ガッツも、かなみも、百合子の言うことには大抵従う垂瓦でさえ、ぽかんと口を開けている。

「今の、みんな見たでしょ。気持ち悪かったけど、凄いインパクトだったと思わない? あの出だし、普通じゃないわ。普通の感性してたら撮れない。あれこそ、あたしたちが求めていたインパクトそのものじゃないの? 心臓が止まりかける恐怖。あれを使えば勝てる。コンクールに十分通用する作品ができるはずよ」

 息巻く百合子。けれど少しして、興奮なのか熱なのか、燃え上がっていたものが急に冷めたらしい。

「ごめん……いきなり何言ってんだ、って感じだよ、ね」

 (しぼ)んだ声で、百合子はそう言った。

「確かに、いきなり何言ってんだって感じだよ」

 ガッツが呆れ顔でその場に寝っ転がる。

「でも、インパクトあるってのは同意」
「……うん。私も、本物かと思うくらい心臓が止まりかけた。多分、あれが本当の恐怖っていうんだね」

 続いて発言したのはかなみだった。
 まだ顔を引きつらせながらも、考えるように視線を落としている。

 それを後輩たちは、不安そうに見守っていた。
 あの謎めいた不気味な映像をリメイクするなんて、馬鹿げている。そう思っていたのだろう。

 けれど。

「リメイク、案外いいかもしれない」
「俺も、やってみる価値はなくはないと思う」

 かなみとガッツの遅れた賛成に、三人の後輩たちはこれ以上ないほど口をあんぐりと開けた。