荊棘―おどろ―




 夜の校舎は、なぜこんなにも表情を変えるのだろうか──。

 蛍光灯の落ちた廊下を、僕は息を切らして走っていた。
 上履きの擦れる音が、やけに大きく響く。背中の鞄が跳ねるたび、肩に食い込んだ。

 スマホを忘れた。

 家に帰って気づいた時は、明日でもいいと思った。
 けれど、明日の教室で自分だけが知らない話題がある。というのがどうにも許せなくて。

 たったそれだけのことで戻ってくるなんて、我ながら情けないと思う。
 でも、その情けなさを笑えるほど、僕には余裕がなかった。

 昼間、教室で耳にした噂だ。

 誰もいない夜の校舎。
 忘れ物を取りに戻った生徒。
 そして、暗い教室のどこかで鳴る、持ち主のいない着信音。

 半分聞き流していたはずの話が、今になって鮮明に輪郭を持ちはじめる。

 廊下の先は暗く、息は苦しい。それなのに、足音だけがやけにはっきり響いて気持ちが悪い。

 教室に辿り着くころには、喉の奥が乾ききっていた。

 肩で息をしながら机の間を素早く抜け、自分の席の引き出しに手を突っこむ。
 腕を乱暴に動かし、奥を探った。