荊棘―おどろ―


 *  *  *


 ガッツの大型二輪の後部座席に乗せてもらい、僕らは加美木商店街の居酒屋に着いた。

 本日貸切の張り紙が出た扉を開けると、座敷ではすでに十数人の男女が騒いでいる。スーツを着崩した者、真っ赤な顔で笑う者、テーブルに突っ伏している者。どこにでもある、少し浮かれた同窓会の風景だった。

「おいみんな! 新入り来たぞ! 東だ! 歓迎してやってくれよ!」

 ガッツの声で、全員がこちらを見る。

 沈黙。

「東じゃん」
「おお……東じゃん!」
「久しぶり! 東君!」

 似たような声が次々に重なる。
 ありがたいことに、誰も僕を無視しなかった。問題は、僕の方がほとんど誰の顔も思い出せなかったことだ。

 ここからは終了まで適当に話に合わせて首を振っていればいい。自ら注目を浴びようなどという無理はせず、それなりに無難な人を装う、出過ぎず引っ込み過ぎずの絶妙なラインを保つ。
 それが、「東 ヒビキ」が一番得意な演技だ。

「東君ひっさしぶりぃ、元気だった? ね、全然会わなかったよねぇ、今大学生? どこの?」
「一人暮らし?」
「なんのサークルに入ってるの?」
「東くん、枝豆あるよ、食べなよ」
「なんかすっごい中学の時も落ち着いてたけどさ、変わってないよねえ」
「おい東! お前さあ彼女できた?」
「ほんと変わってないよなあ。お前酒飲める? なんか頼むぞ、あ、腹減ってる? なんか食えよ」
「今東京って大変だよなあ、あの連続殺人とかさあニュースで色々やってんじゃん、お前気をつけろよ」

 今は東京の大学だよ。
 うん、一人暮らし。
 サークルはお笑い研究部、誘われてなりゆきでね。
 ありがとう、いただきます。
 そうかなあ。僕は普通だと思ってたけど。
 彼女は今はいないかな。
 ごめんお酒飲めなくて、ウーロン茶もらっていい?
 そこ心配だよ。事件が起きたの、ちょっと家から近いしさ……。あっちに帰るまでに捕まってくれればいいなって思うよ。
 
 なんて、しばらく椀子そばみたいな質問攻めに対応すると、数人の派手な容姿の男女は気が済んだのか僕への関心を薄れさせ、またどんちゃん騒ぎの渦へと戻っていった。

「……久しぶり……東君」

 注目から解放され、ウーロン茶をジョッキで飲んで一息付くと。少し離れたところから小さく呼び掛けられた。