荊棘―おどろ―


 四肢に力はなく、口はぽかりと開いている。長い髪に覆われた顔の表情は見えない。けれど、その体はもう人ではなく、命の抜けた人形のように静かに揺れていた。

 誰も何も言わなかった。
 言える状態ではなかった。

 これは、本物なんじゃないか。

 そう思いながらも、僕らは目を逸らせなかった。台本がある。これは芝居だ。作り物だ。そう考えることで、なんとか画面の前に踏みとどまっていたのだと思う。

 映像は何度か途切れ、場面が切り替わった。
 再生時間は三十分弱。最後は砂嵐に染まり、テープはデッキの口から吐き出された。

 音は一切なかった。
 それでも後にかなみが短い台本を解読し、僕らはおおまかな筋を知ることになる。

 作品のタイトルは『おどろ』。
 脚本担当者は不明。コンセプトは怪談。

 学校の噂に興味を持った六名の生徒が、好奇心から化け物を呼び出そうとする。必要なのは、自分たちの髪と、媒体にされる一人の少女。彼女たちはいじめを受けていた女子生徒を捕らえ、儀式の(にえ)にしようとする。

 そこで映像は終わり、台本も先が千切られていた。

 なんという内容だ。
 冒頭の少女は、おそらく儀式の場面なのだろう。

 女子たちは顔を顰め、テープが終わると慌てて照明を点けた。

「頭……絶対おかしいっすよ、なんなんすかあれ。なんであんなもん撮ったんすかね……」

 紙と十円玉で呼び出す「こっくりさん」。呪いの藁人形に釘を打ち付ける「丑の刻参り」。
 それらが随分かわいく思えるほど、映像の後味は悪かった。

 今までDVDが終わっても平気な顔をしていた僕らが、この時ばかりは誰も笑えなかった。
 中途半端で、音もなく、結末すら失われた映像。それなのに、消えない棘みたいなものを残していった。

「ねえ――」

 重たい沈黙のあと、デッキを見つめていた百合子が小さく呟いた。

「ちょっと、さ……思いついたんだけど」

 全員が顔を上げる。

 百合子は恐れと興奮が混ざった顔で、もう一度言った。

「これ……、もとにしてさ。撮ってみない……?」


 僕たちは、誰も思わなかった。

 中学最後の夏休み。この青すぎる思い出がどんなに忘れたくとも、一生忘れられないものになると、この時は、まだ……。