荊棘―おどろ―


「わかった、これ。『演劇部』の先輩たちだよ」

 かなみが手を打つと、百合子も思い出したように身を乗り出した。

「ああ! 映画部の元祖って言われてた!」
「なんだそれ」
「先輩に聞いたことなかったの? 映画部って、創立当初は演劇部だったんだよ」

 映画部はもともと演劇部で、代替わりするごとに撮影部、映像研究会と名を変え、今の映画部になったらしい。

「すごい。活動日誌も細かく書かれてるし、台本もノートも書き込みが丁寧。落ちこぼれのうちとは大違いね」

 何代も前の先輩たちが残した記録に、百合子と垂瓦はすっかり興奮していた。

 そんな中、左門の視線だけは、ちらちらとビデオテープへ向かっている。

「一つ提案なんすけど。これ、ちょっと観てみたくないすか?」
「これを?」
「先輩たちの演技も気になるし、撮影の参考になるかなぁと思って」
「へえ、ええんでないの。盗める技術があるかもな」
「うん。あたしも賛成! ビデオデッキ、まだ残ってたっけ?」

 ガッツと百合子の意見が珍しく一致した。左門は嬉々として奥の段ボールを漁り、埃を被ったビデオデッキを引っ張り出す。

「私もいいと思うよ。なにかヒント得られるかも」
「こんなに台本あるのに、他のビデオテープはないんですね」
「他のはダメになっちゃったのかな。テープって傷むものだし」
「ふあ……ほんとに今から観るんですか?」

 眠そうな斜丸は最後まで抵抗したが、百合子とガッツ、そして妙に乗り気なかなみに押し切られた。

「な、東もそれでいいだろ?」

 最後にガッツが僕を見る。

 どうせ僕が首を横に振っても、この流れは止まらない。
 良くも悪くも、流されることに慣れていた僕は、写真の束を段ボールの奥へ戻し、何事もなかったように頷いた。

 あの写真を見たら、それでもみんなはテープを観る気になっただろうか。

 気にはなった。
 でも、結局僕は言わなかった。


 *  *  *


 埃を拭き取ったビデオデッキを、左門がスクリーンになんとか接続する。
 ガッツは照明を落とし、扉の暗幕まで閉めた。

「雰囲気出るだろ?」

 巡回の先生ももうじき来るだろうに、異を唱える者はいなかった。

 暗い部屋を青い画面だけが照らしている。
 その光を頼りに、百合子がビデオテープをデッキに差し込んだ。

 テープは案外すんなり飲み込まれた。
 けれど、ほどなくしてデッキの中で、キュルキュルと嫌な音が鳴る。

 画面は青いまま、何も映らない。

 やがてデッキが小さく唸り、ビデオテープを吐き出した。

 落胆の声が、暗い視聴覚室にこぼれる。

 まあ、そうだろう。
 あんなに古そうなテープが、そう簡単に観られるわけがない。

 僕個人としては、少しほっとしていた。
 適度に騒げたし、これで終わりなら悪くない。

「左門君、直せないかな?」
「いやー……、いくらオレでもデッキは触れても、問題はテープの方だと思うんで」

 かなみに縋るように聞かれ、左門は申し訳なさそうに答えた。

「テープはさすがに……」
「そうだよね」
「ちょっと、ガッツ、なにしようっての」

 諦めかけた空気の中、ガッツが一人立ち上がり、デッキをまじまじと覗き込んだ。

「いや。ほら、ものは試しじゃん」

 次の瞬間、奴はビデオデッキの天板を、でかい拳で遠慮なく叩いた。

「やだ! なにやってんの!」
「ガッツ先輩それまずいっすよ! 壊れたら……!」
「どーせ壊れてるようなもんだろ。壊れたテレビは叩くのが鉄板じゃん」

 ガッツよ。君が叩いているのはテレビではない。学校の備品だ。

 百合子がやめろと怒鳴っても、ガッツは構わず叩いた。

 画面が大きく揺れ、砂嵐が走る。
 デッキの中から、ぎゅるぎゅると文句のような異音が続いた。

「あ――、え、ちょっと」

 左門が焦ってリモコンを操作する。反応はない。

 本当に壊れた。

 誰もがそう思った、その時だった。

 薄っぺらなスクリーン全体を激しい砂嵐が覆い、やがて、僕たちが観たいと望んだ映像を映し出した。

 最初は、何が映っているのかわからなかった。
 画面は揺れ、途切れるように明滅し、また戻る。

「なんだ……これ……」


 ようやく映像が安定した時、僕たちは一斉に短い叫びをあげた。

 モノクロの画面の真ん中で、黒いセーラー服を纏った髪の長い少女が、天井から垂れたロープに吊られていた。