人を呪わば夜が明ける?

 ふら、ふらとほとんど倒れるようになりながら家路をたどる。
 住宅街だというのに、人の気配はまるでない。

 とんでもないことに巻き込まれてしまった。あの後も散々だったのだ。
 「このままだ死ぬぞ」だの「いいから俺らに利用されてろよ」だの散々な物言いをされ、泣く泣く白旗を振った。
 しかも白旗を振った後は全員がヨタカに興味を失い、「じゃーおつかれっ」と手を振られ、追い出されるように車から出たのだ。

「はぁー」
 
 ふらふらした足取りで家の近くの角を曲がる。
 ふとある人影に気が付いた。

「……高嶺くん?」

 ヨタカの玄関の前に、しゃがみ込んだ小さい背中があった。ヨタカの声に高嶺が弾かれたように顔をあげる。

「……よたかさん」
「なにしてんの! 風邪ひくよ!」

 慌てて高嶺に駆け寄り、自分の学生服をかぶせる。
 高嶺は野外にいるというのに何故かブラウスのみだ。どれほどの長さをここで待っていたのだろう。

「ここでなにし、え、ほんとにどうしたの、風邪ひいたらまたお母さん怒られ、」
「よたかさん」

 ぐい、と体を引き寄せられた。重力に従って膝が地面に着く。柔軟剤の強い香りが鼻孔を突いた。
 背中が熱い。暖かい。
 高嶺に抱きしめられている。その事実に驚くよりも先に、高嶺の声がした。

「……忘れたいって、思ったけど」

 彼が何を指しているのかはすぐにわかった。逃げようとしていたのは、何もヨタカだけではないらしい。

「今日、よたかさんの顔見ないと、現実の方が夢だって、おもっちゃいそうだったから。ほんとのヨタカさんは、おれが、おいてっちゃったから、もう、いないんじゃないかって」

 いつもしっかりした彼の声が震えている。思わずヨタカも背中に手を回す。

「あえて、よかった」

 彼だって、ヨタカだって怖かった。恐ろしかった。
 鼻先がつん、とした。

「置いて行って、ごめんなさい」

 ああ。あの奇妙な組織に協力しよう。
 なんの脈略もないことを思った。

 あの悲劇は、きっと誰も忘れられない。だからこそ、きちんと知って対処を学ぶ必要がある。
 震える背中をさすりながら、ヨタカは決意した。