憑依未満の夏葬


――――俺を思って、涙を流す凪は可愛い。

依存して、縋ってくる姿は蜜のように甘かった。
俺が生きていたころ、初めて出会ったときから凪はそうだった。

必死に慰めようとするし小さな小さな手。
まだ幼い子供に頭を撫でられるなんて思ってもみなかったが、ぎこちなく、でも一生懸命な姿は俺の凍りついていた心を温かくほぐした。

感情がつられて一緒に泣きそうになり、口をへの字にして耐える姿はとても愛らしかったことを覚えている。

【お兄ちゃんだけ特別にあげる。これレアなんだよ】

そういって、幼い凪は水色の棒付きキャンディを差し出した。

俺の最後の記憶は、名前しかしらない男の子と、その子がくれたソーダ味のキャンディ。

ずっと暗闇の中にいた俺は、気がつけば凪の前にいた。
俺は凪の事など覚えていなかったし、どうしてあの日、この葬儀場で漂っていたのかもわからない。けれど、凪は俺が認識できる唯一の光だった。

凪が俺を見て、その存在を肯定してくれるたびに、俺は自分を思い出し、雨宮豹吾という人物を再形成していった。

互いが混ざり合うたび記憶も共有しているようで、俺が凪の中に吐き出すたびに、凪は俺の過去を夢見る。
凪は俺が成仏するのを自分のせいで引き留めていると思っているようだが……そろそろ気が付いてしまうだろうか。

禁忌を犯した俺は、

――――そもそも、どこにも行き場などないのだと。

『凪』

呼べばすぐに俺を見る。
どうしたのかと首を傾げる凪に、蜜を含んだ甘い声で強請った。

『――――今夜も、凪を分けて』