憑依未満の夏葬

――夏はやはり、葬儀が多い。

夏祭りが終わり、お盆を過ぎるとどっと問い合わせが増えた。夏は波があるが、体感、お盆明けって忙しくなっている気がする。
夏は花も痛みやすいしドライアイスの交換も頻度が増えるし、細かい気遣いが必要になる。
とにかく動き回るので、長袖のスーツの下は汗でびっしょりだ。

今日は五十代の主婦だった。買い物帰りに脳出血になり、そのまま亡くなったそうだ。子供が三人もいて、一番下の子供はまだ中学生らしく泣きじゃくっている。まだ若いのに可哀そうに、と参列者の会話が聞こえた。

今日も高槻住職がお努めしている。
読経を聞きながら、参列客を案内していく。

たくさん泣いて、でも告別式や火葬が終わる頃には、なんとか気持ちを整理しようとしている人が多い。
そんな姿をみると、無理をしているのが伝わってきてとても気の毒だった。

――俺たちのように、みんなも一緒にいられればいいのに。

葬儀のたびにそんな感情になった。
必死に区切りをつけて死を納得する必要なんてあるのかな。

俺の背中から抱きついて、ぴったりとくっ付いて離れないヒューゴに、周囲には悟られないようにそっと触れる。

『凪、あと少しだな。がんばれ』

囁いてくれるだけで、力が湧いた。
あれから効果が薄れるたびに体を重ねている。
一緒にいるだけではもう物足りなくて、今はただ、存在を確かめると気持ちが落ち着いた。

葬儀が終わり、高槻住職に呼ばれ向かうと、神妙な面持ちで切り出しされた。

「凪君。大丈夫ですか」

最初、何を言われているのかわからなかった。
心配されていることだけはわかる。

「混ざりすぎている。祭りの日はこれほどではなかったのでそのままにしましたが……とても、よくない状態です」

高槻住職の言葉に、とげついた反抗が芽生えた。
よくない? どうしてそんなことを言うんだろう。今、とても幸せなのに。

「お手伝いしますから、祓いませんか」

祓う? それって、成仏させるってこと?

「いえ、必要ありません」

ヒューゴを祓うなんて、とんでもない。

「悪いものではないでしょう。しかし……」

高槻住職の手が俺の肩に伸びた時、パチンと軽く弾けたような音がした。
住職ははっとし、静電気に触れた時のように手を引いた。

自分でも、何が起こったかわかっていない。
戸惑った高槻住職が、俺の全身にさっと目を走らせる。

「それは……?」

俺の胸ポケットにいれているボールペンを、視線で指した。
ペンには祭りの日にヒューゴと一緒に取った鈴のチャームがついている。普段はスマホに付けているのだが、仕事中に持ち歩くわけにいかないのでバイトがある時はペンの頭に付け替えるようにしていた。

始めは音の鳴らない鈴を笑ったが、今ではそのほうが便利だと思っている。

「祭りの日の、屋台の景品です」

そう答えると、高槻住職は「やれやれ」と息を吐いた。

「それに、守護が働いているようですね」

これが原因で俺に触れられないのか。

「傍に置くと決めたなら、何も言う事はありません。……でも、ひとつだけ、お伝えしておきます。それは悪でもないが、決して善でもない。私は、凪君に恨まれようとも、凪君の生命に危険が及ぶと判断したら動きます」
「……はい」

返事をしたが、納得してはいなかった。
いつから、高槻住職の言葉を素直に受け止められなくなってしまったんだろう。

背中にくっついたまま、ずっと黙って聞いていたヒューゴは、住職が居なくなると自由に俺の周りを飛び始めた。俺は片付けに入る。

『凪は俺が怖い?』
「ヒューゴが怖かったことなんて一度もない……あ、違うな。初めて会った時逃げたわ」

目玉だけが突然出現したんだ。あれは恐ろしかった。

『そうだった』

ヒューゴが声を上げて笑った。

ヒューゴが邪悪なものになったら除霊? 
ぜったいそんなことにはさせるもんか。第一、そんなことがあるはずがない。
それに、命に危険が及んでも、ヒューゴとならどこまでも一緒にいるつもりだ。

俺だけが視えて、俺だけがその存在を繋ぎ止めてあげられる。

俺だけの、愛しい幽霊。
――ぜったいに、手放しなんてしない。