憑依未満の夏葬

ふたりともみごとに射的のセンスはなく、弾は五つ貰ったけれど全然当たらなかった。
最後のコルクでなんとか当てたいと気合をいれて撃ったら、かすって景品がぐらついただけだった。さすがに倒れるまではいかなくて残念がっていると、ヒューゴが止める間もなく景品めがけて飛んで行って風圧で倒してしまったのだ。

「もー、駄目だって悪いことしちゃあ」
天国いけなくなったらどうするんだ。

『なんだよ。喜ぶと思ったのに』
「……ありがとう。すごく嬉しい」

苦言をいいつつも、ふたりでゲットした初めての景品だ。多少、店主に申し訳なさはあるが嬉しくないわけがない。

「あ、これおもちゃ付きのお菓子だ」

箱には小さな鈴が入っていた。鈴といっても半透明で水色のプラスチックでできたもので、すぐに壊れそうなボールチェーンがついていた。

指にかけて目の前に掲げる。
中の玉もプラスチックみたいで、軽く振ってみると、コロと微かに音がした。

「はは、これ鈴なのに鳴んねーじゃん」

俺が笑っても、ヒューゴは鈴を静かに見つめていた。

「……こういうの、好きだった?」

真剣な面持ちが気になって何気なく聞くと、ゆっくり頷く。
嬉しそうにも泣きそうにも見えた。

『買ってもらったことはなかったから』
「――」
――ああ、そうか。

叶えられなかった子供のころの想い。
ようやくそれが叶った顔なんだ。だから嬉しさとやるせなさが混じってる。

「じゃあ、これはヒューゴにあげるよ。今日の記念に」
『俺は触れない』

鈴を自分の手のひらに乗せると、ヒューゴに手を重ねるように促す。

「ほら、こうしたら触れてるみたいだろ」

重なった手の間に、音のない鈴が転がる。

『ほんとだ』

ヒューゴは切なげな顔で呟いた。

「俺が毎日持ち歩くよ。そしたら、この鈴もずっとヒューゴと一緒にいられるな」

とりあえず、背負ってきたリュックのファスナー部分に取り付けた。
家に帰ったらスマホに付けるとか、どこがいいかもう一度考えよう。落とさないように補強して。ヒューゴからいつでも目につく場所が良い。

ヒューゴは触れていいのか、確かめるみたいに恐る恐る指先を寄せる。
触れはしないけれど、ちょうど風が吹いたのか俺が動いたからか、鈴が、かすかに揺れた。

その瞬間、ヒューゴはふっと息を呑む。

両親と上手くいっていなく、たいして高価でもないお菓子も買って貰えなかった。
きっとヒューゴの過去には、もっとたくさん複雑な事情があるんだろうと伺い知れる。

全部は無理だけど、少しでも俺が癒してあげられればいい。
一緒にいる間くらい、楽しく過ごしたいし、幸せだと感じて欲しい。

『凪と来てよかった』

過去の呪縛から解放されたような、ヒューゴの表情はどこか幼い。まるで、甘えているような。

「だろ? もっと楽しもう」

飴をひと粒口に放り込み、ヒューゴの口にもいれてやる。

「どう?」
『味しない。ビー玉舐めてるみたい』
「はは! そりゃ不味いわ」

俺はヨシ、と気合をいれるとヒューゴを連れまわした。
俺だって祭りなんてめったに来たことないからめちゃくちゃ楽しみにしてたわけだし。思いっきり満喫してやる。

タコ焼きに焼きそば、チョコバナナ、それにかき氷。俺は屋台を見上げながら、それらを順番に食べていった。味がわからないと言うヒューゴにも、一緒に楽しんでほしくて、ひと口ずつ分けていく。
途中、お面を買って頭に付ける。

ラムネを飲みながら歩いて、ヨーヨーをふたつ吊って、おもちゃ釣りのくじ引きをやってシャボン玉と女児用のビーズのブレスレットを当てた。ぶっちゃけハズレだけど、それさえも楽しくてしかたがなかった。

たくさん歩き回ったので、一旦休憩しようとなり、境内にある社務所の縁台に腰掛けた。
人混みをさけるため裏手にまわると、俺たちの他は誰もいなく、くつろげそうだ。

「はぁー、たくさん歩いたな! それにお腹もきつい」
『食べすぎだろ』

足も疲れたが、食べすぎでお腹パンパンだ。袋に詰められた綿菓子も買ってあるが、食べきれなく腰からぶら下げていた。

「でも、リンゴ飴とらくがき煎餅も食べたいんだよなー」
『らくがき煎餅は俺もきになる』
「だよな、全部楽しみたいじゃん」

祭りフルコースだ。
ヒューゴが来年もいてくれるのか、それでまた一緒にこれるかなんてなんの保障もない。だから今日めいいっぱい、後悔の無いように過ごしたい。

縁台の端に置いてある蚊取り線香から、ゆらゆらと煙があがる。
初めて会ったときのヒューゴみたいだ。

ぼーっと見ていると、後ろから「おや」と声を掛けられた。

「凪君、来てくれてたんですね」

高槻住職だ。いつの間に後ろに立っていたんだろう。
俺は勢いよくヒューゴの手を取ると立ち上がり背中にヒューゴを隠した。ヒューゴの方が大きいから、見えてしまっているだろうけど。

「じ、住職……こんばんは」
「はい、こんばんは」

高槻住職は紺色の作務衣に羽織だけ引っかけた姿で、いつもの法衣姿とは異なりラフだった。表情も穏やかであるが、何を考えているのかわからなく様子を伺う。

これまで何度もヒューゴを見てきたようだけれど、何か言われることも、手を出してくることもなかったのでそれほど警戒はしていなかったのだけど、音もなく距離を詰められると何かされるのではと勘繰ってしまう。