憑依未満の夏葬

翌朝、一晩経っても触れ合えている状況に、ふたりして目を丸くした。

『凪の精力すげ……』

言い切る前に枕を投げ阻止しようとしたが、枕はひゅっと体を通り抜けてヒューゴの背後に落ちた。

『ははは!』

してやったりのヒューゴに、えいやっと飛びかかり馬乗りになる。物体は避けられても俺は避けられないだろう。

「そういうこと言うなって!」

朝から血圧があがりそうだ。

『なんで? 俺は嬉しい』

腕を伸ばし俺を引き寄せると、ヒューゴはリップ音を響かせて軽いキスをした。

『こういうことできるし』

キスがおはようの挨拶になるのは恋人だけだ。

じっとこちらを見つめる視線に耐えられなくて、ソワソワと視線を逸らした。
もしかしたらヒューゴには十二年前の俺と同じに見えているのかもしれない。

幼い子供のままに。
昨夜の話をきいて、俺に出来ることはなんだろう。

ヒューゴがいつかいなくなってしまうのかって怯えるのではく、いつ消えても後悔しないように過ごすべきなんじゃないか。
俺の元に来た理由も意味も、ヒューゴは話してくれた。今はそれでいいじゃないか。

今日は夕方からまたバイトが入っている。
それまで近くのショッピングセンターに買い物に出かけることにした。

準備をすると、バスと電車を乗り継いで向かう。

ヒューゴはこれまで学校にもバイトにも着いて来ていたから、一緒に出掛けるのは慣れている。でもこれまでと違うのは、ヒューゴを感じながら一緒に行動できるってことだった。

電車に乗っているときも歩いているときも、手を繋いでいても不自然じゃなく、誰からも変な目で見られないことに気がつくと、俺たちはずっと手を離さなかった。

友達とは、恥ずかしくて手を繋いで遊んだりなんかしない。でもヒューゴとなら、それが当たり前みたいにできてしまう。
ふたりだけしかわからない秘密を共有しているようで、少し気分が上がった。

そのままの勢いで、化粧雑貨と漫画、それからシャツを一枚買った。ちょっと失敗したのは服を買うときのこと。

試着室で「これ、似合ってる?」とつい気を抜いてヒューゴに話しかけてしまい、それが聞こえた店員さんが、カーテンの向こう側から「お客様、よろしかったらサイズ感など、一緒に見させていただけたら嬉しいです~」と明るく声を掛けてくれた。

ヒューゴは隣で爆笑していたが、俺は誤魔化すのに必死だった。
買物を終えて駅のホームへ戻ると、浴衣姿の人が目につくようになった。

「今日、花火大会みたいだ」

スマホで調べると、隣町の花火大会のスケジュールが出てくる。

『好きなのか?』
「いや、夏の夜って繁忙期だから、なかなか出かける事はなかったなぁ」

親に連れて行ってもらったこともない。高校にもなれば自分で行けるけど、そういえば去年もバイトに明け暮れていた。

「ヒューゴは?」
『俺も行ったことねぇな。そういうの』

ヒューゴはつまらなそうに呟いた。

「……じゃあ、行く?」
『今から? バイトじゃねぇの』
「ちがうちがう」

俺は掲示板に貼られているポスターを指さした。

「こっちの、夏祭り」

この町の夏祭りは三日後だ。幸運にもシフトは入っていない。
「これ、一緒に行こう。俺、ヒューゴと夏祭りにいきたい」

***

『俺の為ならなんでもするっていったじゃん』

不満そうなヒューゴの前で、俺はいたたまれなくて正座をしていた。
夏祭りを明日に控えた前夜、俺はヒューゴにとんでもないお願いをされている。

「いや……うん。それはそうなんだけど……」

もちろんそう思っている。だけど今だけは歯切れが悪いのは許してほしい。
視線は忙しなく動き、変な汗が止まらない。

『夏祭りで手を繋ぎたいって言ってるの、そんなに難しいか?』

勿論俺も繋ぎたい。
この間の買物は本当に楽しかった。

問題は手を繋ぐことではなく、そこに至るまでの過程にある。

前回は、バイトにいくころには効力がなくなっていた。
だから今回は、〝もっとたくさん〟というのがヒューゴの希望でもある。

「和三盆のお菓子、たくさん持って行けばよくない……?」