憑依未満の夏葬

「意味わかんないよ。変わるだろ。いろいろ俺たちの関係についてもわかってきたじゃん。過去に繋がりがあって、だからヒューゴは俺のところに現れたんだろ」
『そうだ』
「俺に助けてほしくて、来たんだよな?」

控室での会話を思い出す。
落ち込んだヒューゴに、これからは俺が一緒にいる、助けると確かに約束をした。

『ああ。でも、今でも十分助けてもらっている。だから無理するな』

埒のあかない会話にがっかりする。
ヒューゴは教えるつもりはないということだけはわかった。

何でも共有しあえる仲だと思っていたのは、俺だけだったのか。
四六時中一緒にいて、あんなにくっついて離れなかったくせに、今になって急に距離をとろうとするヒューゴに腹がたった。

「俺が信用できない?」
『そういう意味じゃない。知る必要がないと言ってるだけだ。しつこいぞ』

ヒューゴは語気を荒げたが、はっとして唇を噛んだ。

じゃあ、なんでお前はここにいるんだよ。
俺のいる意味ってあるのかよ。

「……もういい」

もういい。もういい。
ヒューゴに振り回されてばかりでたくさんだ。

しつこいってなんだ。言いすぎだ。
心配してるのに。助けてやってるのに。俺がいなかったらヒューゴなんて消えてしまうのに。
恩着せがましい幼稚な罵倒しかでてこなくて、すごすごと部屋をでた。

俺ってだっさ……。

一個しか違わないのにおとなぶって。
あ、違うか。もし霊体になったのが十二年前の十八歳なら、いまあいつは三十歳だ。

「なんだ、あいつおっさんじゃん……」
無理やり笑った。

情けない。いざという時に力になれない自分が悔しすぎて苛立ちが治まらない。
ひとりで感情的になってる自分がさらに情けなくて、ため息をつきながら風呂に向かう。
頭を冷やそう。
これじゃあ思い通りにならなくて癇癪を起こしているのと一緒だ。
いつもなら必ず着いてくるヒューゴの気配は、部屋にとどまったままだった。

ボディーソープをたくさん使って、ガシガシと、いつもより強く体をこする。
泡と一緒に、胸の奥のざらつきも流れてしまえばいい。
どうして自分が特別だと勘違いしたんだろう。

キスしたくせに。
俺の初めてを奪っておいて、記憶が戻ったら用済みか。
しかも、軽いもんじゃない。脳が溶けるような、深い大人の触れ合いだ。

恥ずかしくて、でも気持ちよくて、そのたびに俺はもっとして欲しいと思ってしまっていた。
薄い唇に貪られ、求めて貰えることは嫌ではない。寧ろ嬉しいとも感じる。
もう何度もしたあいつとのキスを思い出したら、ズクンと下腹部に熱が集まった。

「うわ、うそだろ……」

腹が立っているのになんで。
泡のなかからムクムクと元気になるものが見えた。
主張を始めた自身に、そっと指を這わせる。

「あ……はぁっ」

ひとりの時間がなくてしばらくご無沙汰だったから、驚くほど敏感だった。

キスをするたびに屹立を繰り返していたが、処理をできるようなタイミングはなかった。
その度に気を紛らわせていたから、そろそろ限界を迎えている。

ヒューゴが近くにいないのは都合がいい。
むしろチャンスは今しかないかも。
俺は解放を求めるそれを、きゅっと握ぎった。

「ふ……」

想像するのは、巨乳のお姉さんでも、清純そうな女の子でもなくヒューゴだった。
色香のある横顔。
凪、と耳元で囁く声。骨ばった大きな手が、腰を掴んだときのお腹の奥底の疼きを思い出す。

「う……ぁ……」

上下に動かす自分の手に酔いしれる。
気が付けば夢中で動かし、呼吸は乱れていった。熱い蒸気と同じぐらい火照った体は、せっかく洗っていたのにじわりと汗ばんでゆく。

あんなやつ。あんなやつ。
笑った顔を思いうかべただけで、きゅっとそれは硬さを増した。

「ヒューゴっ……」

無意識に名前を呼ぶ。
なんで俺、あいつに発情してるんだ。
舌の柔らかさを反芻したら、快楽の頂点が近づいた。

「ふ……ヒューゴぉっ……うっ……」

大胆にゆすり上げると、溜まっていた白濁が勢いよく飛び散る。
快楽に酔いしれのけ反った瞬間、目の前にヒューゴが現れ、俺が放ったそれを体で受け止めた。
顔から上半身にかけて、べっとりと。

「――な、……なっ……!」

ヒューゴは一度瞬きをして、ゆっくりと自分の身体を見下ろした。
俺は言葉を発せずに、口をわなわなとさせる。

「ひ、っひ……」

涙目だ。

いくら男同士でも、踏み込んでいけないプライバシーというものはあって然るべきだ。
ヒューゴは配慮がなさすぎる。

『悪い。俺の名前呼んでたし、うめき声聞こえたから泣いてるのかと思って……』

――声が、聞こえていた?

すでに熱々だった顔が、さらに噴火するみたいに煮えたぎる。
元気に飛び散ったものが掛かった場所が、青白く発光していた。

そうだ。その現象はなんとなく理解できる。
涙でも唾液でもいいなら、今放たれたそれもきっと作用はして、実体化させる対象にはいるのだろう。

ヒューゴはおもむろに体についたそれを指で掬うと、口に運ぶ。

「なっ……やめろって……!」

そんなもの食うな。
慌てて止めに入るが、時は遅し。ヒューゴは自分の指ごとパクリと口に含むと、躊躇なく飲み込んだ。

直後、ヒューゴの身体の中心から、閃光爆弾が爆発したみたいに光が漏れる。

「え……!」

焦って立ち上がった俺は足を滑らせ、ヒューゴに向かって倒れた。

ヒューゴに抱きとめられ、ぬる、と自分の出したものが肌に擦れる。
これは、高槻住職のお菓子を食べた時と一緒の現象だ。

「うそだろぉ……」

素直に喜べない。すごく受け入れがたい。

『やば。すげぇ甘いんだけど』

そんなヒューゴの感想に、今ならひとを殴れると拳を握った。

***

のぼせたかもしれない。
風呂を出て、エアコンの風にさらされても、なかなか顔のほてりは収まらなかった。
ヒューゴを説教すべく、ベッドの上に正座をさせた。

「勝手に風呂に入ってこないって約束しただろ!」

怒りを鎮めるために風呂に行ったのに、入る前よりも興奮していた。

『悪かったけど、だから呼ばれたと思ったんだって。心配したんだよ』
「わかるけど! ありがたいけど! 入る前に、大丈夫かとか声かけてくれればいいじゃんか!」