体験したヒューゴも首を傾げながら話すので、聞いている俺は、余計に理解が追いつかない。
それでも――まあ、名前が知れただけでもよかった。
ヒューゴが帰ってきた途端元気になった俺は、母さんが用意してくれた夕飯を両方食べた。
またキスをして、ヒューゴにうどんを食べさせてみたが、何も起こらなかった。期待したわけじゃないのに、少しだけ肩透かしを食らったような気分になる。
和三盆は甘いと言っていたのに、それ以外の味はわからないらしい。やっぱり、あのお菓子にだけ何か細工があるのかもしれない。
「痛みは? さっき倒れた時、痛いって言ってたよね?」
ヒューゴはじっくり考えてから『ない』と言い切る。
『生きていたときの癖で、咄嗟に口走っただけかも』
「そっかぁ……まだまだわからないことだらけだね」
俺は小さく息を吐いて、ヒューゴのほうを見る。
「明日、また葬儀場の予約は入ってないんだ。繁忙期だから誰かいるかもしれないけど、行って調べてみよう」
苗字がわかったのは、喪主名で検索を掛けられるから大きな収穫だ。
もしヒューゴの言う通り十八歳で死んでいるとしたら、苗字が同じ両親が喪主の可能性は高い。
『繁忙期なんじゃなかった?』
「明日は友引なんだ。六曜って知ってる? その日の縁起の良し悪しを示す六種類の暦の目安なんだけど、友引は友を連れて行くって意味があるんだ。葬儀は縁起が悪いから、この地域じゃ避ける人が多いんだよ。それに、近くの火葬場も友引休みだから、告別式をしても結局安置所に待機になっちゃうんだよね」
『へぇ、さすが詳しいな』
「だてに、葬儀屋の息子やってないからね」
褒められて、ふふんと胸を張る。
『ありがたいけど、凪は俺がここにいた方がいいんだろ? 調べていろいろわかったら不都合じゃないのか。今度こそ消えるかもしれない』
消えると言われて、反射的に涙が滲む。
『あ、ほらまた……泣くなって』
最近泣きすぎだ。自分でも引いている。ああ、普段はこんなに泣き虫じゃないのに。
思いのほかメンタルが弱い自分が恥ずかしくて、深呼吸して気持ちを整えた。
「離れるのは寂しいよ。でも、ヒューゴの助けになりたい、俺がなんとかするんだって気持ちも本物なんだ」
嘘じゃない。成仏できるのなら、させてあげなくちゃ。ただ俺が寂しいだなんて理由で引き留めちゃいけない。
『――ありがとう』
穏やかな微笑みに、改めて彼の為にがんばろうという気持ちが大きくなった。
――そうだ、俺はヒューゴの孤独を埋めてあげたいんだ。
『凪の頭を撫でたい』
ヒューゴが自分の手のひらを眺めながら呟いた。
『凪に触れたい』
「お菓子食べる?」
『いや、あれはなるべくとっときたい。だから凪が舐めて』
ずいっと目の前に手の平を見せられ、顔を引きつらせる。
「ええっ⁉ 舐める⁉ 卑猥すぎない⁉」
『あんな大胆なキスしといて今更なにを恥ずかしがってんの』
「い、いや……なんか俺的にはそれとこれは違うっていいうか」
『つべこべ言わずに舐めろって。俺を助けたいんだろ』
トリガーは俺の……直接的にいうならば体からでる水分、……だ。
涙、唾液では実証済で、もしかしたら汗でもいいのかもしれない。
でも冷静になればなるほど恥ずかしくなった。
――なんで体液⁉
キスをしていると、頭に靄がかかったみたいにとろんとして、つい大胆な事をしちゃってるけど、あんな激しいキスは海外映画でしか見たことがない。
『俺は凪の〝抱きつきたい〟を叶えたのに、凪は俺の気持ちを袖にするんだ』
目を据わらせたヒューゴの手のひらを、慌ててぺろりと舐める。
これ、どうにか持続性あげられないかな。
和三盆は数にかぎりがあるから、大事に使いたいという考えは俺も一緒だ。だからといって、節約で毎回こんなことをしていたら心臓が爆発してしまう。
どうにか片方の手のひらを制覇すると、ヒューゴは満足げに俺の頭を撫でた。
『よくできました』
……俺はけっこう複雑な気持ちになった。
それでも――まあ、名前が知れただけでもよかった。
ヒューゴが帰ってきた途端元気になった俺は、母さんが用意してくれた夕飯を両方食べた。
またキスをして、ヒューゴにうどんを食べさせてみたが、何も起こらなかった。期待したわけじゃないのに、少しだけ肩透かしを食らったような気分になる。
和三盆は甘いと言っていたのに、それ以外の味はわからないらしい。やっぱり、あのお菓子にだけ何か細工があるのかもしれない。
「痛みは? さっき倒れた時、痛いって言ってたよね?」
ヒューゴはじっくり考えてから『ない』と言い切る。
『生きていたときの癖で、咄嗟に口走っただけかも』
「そっかぁ……まだまだわからないことだらけだね」
俺は小さく息を吐いて、ヒューゴのほうを見る。
「明日、また葬儀場の予約は入ってないんだ。繁忙期だから誰かいるかもしれないけど、行って調べてみよう」
苗字がわかったのは、喪主名で検索を掛けられるから大きな収穫だ。
もしヒューゴの言う通り十八歳で死んでいるとしたら、苗字が同じ両親が喪主の可能性は高い。
『繁忙期なんじゃなかった?』
「明日は友引なんだ。六曜って知ってる? その日の縁起の良し悪しを示す六種類の暦の目安なんだけど、友引は友を連れて行くって意味があるんだ。葬儀は縁起が悪いから、この地域じゃ避ける人が多いんだよ。それに、近くの火葬場も友引休みだから、告別式をしても結局安置所に待機になっちゃうんだよね」
『へぇ、さすが詳しいな』
「だてに、葬儀屋の息子やってないからね」
褒められて、ふふんと胸を張る。
『ありがたいけど、凪は俺がここにいた方がいいんだろ? 調べていろいろわかったら不都合じゃないのか。今度こそ消えるかもしれない』
消えると言われて、反射的に涙が滲む。
『あ、ほらまた……泣くなって』
最近泣きすぎだ。自分でも引いている。ああ、普段はこんなに泣き虫じゃないのに。
思いのほかメンタルが弱い自分が恥ずかしくて、深呼吸して気持ちを整えた。
「離れるのは寂しいよ。でも、ヒューゴの助けになりたい、俺がなんとかするんだって気持ちも本物なんだ」
嘘じゃない。成仏できるのなら、させてあげなくちゃ。ただ俺が寂しいだなんて理由で引き留めちゃいけない。
『――ありがとう』
穏やかな微笑みに、改めて彼の為にがんばろうという気持ちが大きくなった。
――そうだ、俺はヒューゴの孤独を埋めてあげたいんだ。
『凪の頭を撫でたい』
ヒューゴが自分の手のひらを眺めながら呟いた。
『凪に触れたい』
「お菓子食べる?」
『いや、あれはなるべくとっときたい。だから凪が舐めて』
ずいっと目の前に手の平を見せられ、顔を引きつらせる。
「ええっ⁉ 舐める⁉ 卑猥すぎない⁉」
『あんな大胆なキスしといて今更なにを恥ずかしがってんの』
「い、いや……なんか俺的にはそれとこれは違うっていいうか」
『つべこべ言わずに舐めろって。俺を助けたいんだろ』
トリガーは俺の……直接的にいうならば体からでる水分、……だ。
涙、唾液では実証済で、もしかしたら汗でもいいのかもしれない。
でも冷静になればなるほど恥ずかしくなった。
――なんで体液⁉
キスをしていると、頭に靄がかかったみたいにとろんとして、つい大胆な事をしちゃってるけど、あんな激しいキスは海外映画でしか見たことがない。
『俺は凪の〝抱きつきたい〟を叶えたのに、凪は俺の気持ちを袖にするんだ』
目を据わらせたヒューゴの手のひらを、慌ててぺろりと舐める。
これ、どうにか持続性あげられないかな。
和三盆は数にかぎりがあるから、大事に使いたいという考えは俺も一緒だ。だからといって、節約で毎回こんなことをしていたら心臓が爆発してしまう。
どうにか片方の手のひらを制覇すると、ヒューゴは満足げに俺の頭を撫でた。
『よくできました』
……俺はけっこう複雑な気持ちになった。



