「これって……ヒューゴ……」
もしや、という思いが思考を埋めつくし、鼓動が速まった。期待と緊張で全身が震える。
光る場所に触れる。
――ならば。
それならば、今、は。
ヒューゴも同じことを考えたみたいで、じっとこちらを見た。
互いに、どちらともなく腕を伸ばす。
『凪……っ』
切なげな声で呼ばれると同時に、俺はヒューゴの胸に飛び込んだ。
温かくもない、匂いもない。
けれど、確かにヒューゴはそこにいた。
無駄のない筋肉質な体。俺よりも広い胸に顔を寄せる。
すごい、すごい。なんだこれ。ヒューゴだ。ヒューゴに触ってる。
背中に腕がまわり、息苦しいほど抱きしめた。堅そうだと思っていた金髪は案外柔らかく、頬や耳を撫でた。
『凪はやっぱり小さいな。見てるより、抱きしめた方がそう感じるかも』
「な、なんだそれ」
頭一つ分違うのだから、そりゃあ小さく見えるだろう。最初に言う感想がそれかって文句言いたくなったけど、
『わりぃ、嬉しいってこと』
ヒューゴが愛おしそうに引き寄せるから、何も言わずに俺も腕に力を込めた。
しばらく抱き合っていたら、違和感に気が付く。
埋めた胸からはなんの音も聞こえない。
からっぽだ。これは見せかけだけの身体。
触れるのに、やっぱりこの世には居ないひとなのだと事実を突きつけられたみたいでズンと気分が重くなった。
『凪はあったかいな……体温も、匂いもぜんぶ感じる。俺とは違うんだな』
ヒューゴも自分が異質なことに気が付いたようで、苦笑する。
「そんなことないって、だって今こうして一緒に過ごして話してるじゃん」
寂しいことを言わせてしまった。
幸せなはずの抱擁に悲しみが混じった。
ヒューゴは今にも泣きそうで、なんとか癒してあげたいと思った。
「ヒューゴ」
大丈夫だよ。俺がお前をひとりになんかしない。まだなんもわかってないけど、それだけは約束できる。
何者なんだよお前。本当に死んでんの。どっかで実は生きてるかもなんて、希望を捨てきれない。だって、こんな奇跡みたいな心霊現象、聞いたことないじゃないか。
『泣くの難しいんじゃなかったのか』
ヒューゴはふっと笑うと俺の頬を両手で挟んだ。
ぽろぽろ零れる涙が手の甲にあたり、そこの輝きが強くなる。
『もったいない』
ヒューゴは呟くと、流れる涙を啄んだ。
「あ、ちょっ……」
『熱くて、しょっぱいな……』
濡れていた頬にも舌を這わし、丁寧に舐めとる。
こくりと喉仏がうごき、淡い光が喉からヒューゴの身体の中心に移動していく。
清らかで、でも色香を感じる行為から目を離せずにいた。
「やっぱり、ヒューゴって俺に憑りついてない?」
『なんで?』
「だって、俺食べられてるみたいだよ。ヒューゴの栄養になってる」
腕の中があまりにも心地よくて、意識をとろんとさせながら言うと、ヒューゴが笑った気配がした。
『そうかもな。凪が特別なのは確かだ』
顎を支えられ上を向くと、あ、と思った時にはヒューゴの顔が目の前にあって軽い口づけを落とした。
ぶにっと唇がつぶれて、すぐに離れる。
「……は、――――え?」
何が起きだたんだ。
今。
「き、ききき、」
――キス⁉
驚いて瞬きしたら、涙の残骸がほろりと零れる。
ヒューゴは目ざとくそれをさっと吸うと、今度は角度を変えてまた唇を重ねた。
口が開いていたからか、その隙間から吐息ともに舌が押し込められ、深まる。
自分の涙の味がして、一瞬塩辛さを感じたがすぐに飛散するようになくなった。
「あ、んむっ」
割って入ってきた舌が、やさしく口内をなぞる。
いつのまにか抱擁はとけていて、ヒューゴの身体はもう光が治まっていて、彼の身体にふれることは叶わない。
――それなのに、絡めた舌だけはずっと光を纏ったままだった。
***
幽霊は寝なくても大丈夫らしいけど、暇すぎるから寝るようにしているとのことだ。
やり方は、寝るというよりスイッチを切るって感じと言っていた。
隣に浮かぶヒューゴの寝顔を眺め、ため息をつく。
ため息はやけに熱が籠っていた。
――あああ、どうしよう。
親以外の温もりを感じたのも、キスをしたのも初めてだった。
そのせいか……。
もそりと寝返りを打ってヒューゴに背を向けると、タオルケットを捲り、自分の下半身を確かめる。
悩ましいことに、ヒューゴとの行為が忘れられなくて興奮しっぱなしなのだ。
あの後の記憶があまりない。
すごかったなーなんて笑って誤魔化して、沸かし直したお湯でラーメンを作って味もわからないままかきこんだ。混乱したままお風呂にはいり、疲れたなーって作り笑いのままベッドに逃げるように潜り込んだ。
ヒューゴはずっとなにか言いたそうだったけど、今は冷静に話せそうもない。
ぎゅっと目を瞑って、深呼吸をする。
幽霊がでたら、エロいこと考えたら霊はその場を離れていくって都市伝説を聞いたことがある。
俗っぽいことを嫌うから、なんて理由までちゃんとあったけど、幽霊と淫らな事をしてしまった場合はどうなるんだ?
違うことを考えようとしているのに、ヒューゴの艶めいた顔や官能的な体がフラッシュバックして邪魔をした。
「はぁぁ……どうしたらいいんだぁ?」
どうしようもできなくて半べそだ。幽霊の隣で煩悩退散と唱え続けた。
もしや、という思いが思考を埋めつくし、鼓動が速まった。期待と緊張で全身が震える。
光る場所に触れる。
――ならば。
それならば、今、は。
ヒューゴも同じことを考えたみたいで、じっとこちらを見た。
互いに、どちらともなく腕を伸ばす。
『凪……っ』
切なげな声で呼ばれると同時に、俺はヒューゴの胸に飛び込んだ。
温かくもない、匂いもない。
けれど、確かにヒューゴはそこにいた。
無駄のない筋肉質な体。俺よりも広い胸に顔を寄せる。
すごい、すごい。なんだこれ。ヒューゴだ。ヒューゴに触ってる。
背中に腕がまわり、息苦しいほど抱きしめた。堅そうだと思っていた金髪は案外柔らかく、頬や耳を撫でた。
『凪はやっぱり小さいな。見てるより、抱きしめた方がそう感じるかも』
「な、なんだそれ」
頭一つ分違うのだから、そりゃあ小さく見えるだろう。最初に言う感想がそれかって文句言いたくなったけど、
『わりぃ、嬉しいってこと』
ヒューゴが愛おしそうに引き寄せるから、何も言わずに俺も腕に力を込めた。
しばらく抱き合っていたら、違和感に気が付く。
埋めた胸からはなんの音も聞こえない。
からっぽだ。これは見せかけだけの身体。
触れるのに、やっぱりこの世には居ないひとなのだと事実を突きつけられたみたいでズンと気分が重くなった。
『凪はあったかいな……体温も、匂いもぜんぶ感じる。俺とは違うんだな』
ヒューゴも自分が異質なことに気が付いたようで、苦笑する。
「そんなことないって、だって今こうして一緒に過ごして話してるじゃん」
寂しいことを言わせてしまった。
幸せなはずの抱擁に悲しみが混じった。
ヒューゴは今にも泣きそうで、なんとか癒してあげたいと思った。
「ヒューゴ」
大丈夫だよ。俺がお前をひとりになんかしない。まだなんもわかってないけど、それだけは約束できる。
何者なんだよお前。本当に死んでんの。どっかで実は生きてるかもなんて、希望を捨てきれない。だって、こんな奇跡みたいな心霊現象、聞いたことないじゃないか。
『泣くの難しいんじゃなかったのか』
ヒューゴはふっと笑うと俺の頬を両手で挟んだ。
ぽろぽろ零れる涙が手の甲にあたり、そこの輝きが強くなる。
『もったいない』
ヒューゴは呟くと、流れる涙を啄んだ。
「あ、ちょっ……」
『熱くて、しょっぱいな……』
濡れていた頬にも舌を這わし、丁寧に舐めとる。
こくりと喉仏がうごき、淡い光が喉からヒューゴの身体の中心に移動していく。
清らかで、でも色香を感じる行為から目を離せずにいた。
「やっぱり、ヒューゴって俺に憑りついてない?」
『なんで?』
「だって、俺食べられてるみたいだよ。ヒューゴの栄養になってる」
腕の中があまりにも心地よくて、意識をとろんとさせながら言うと、ヒューゴが笑った気配がした。
『そうかもな。凪が特別なのは確かだ』
顎を支えられ上を向くと、あ、と思った時にはヒューゴの顔が目の前にあって軽い口づけを落とした。
ぶにっと唇がつぶれて、すぐに離れる。
「……は、――――え?」
何が起きだたんだ。
今。
「き、ききき、」
――キス⁉
驚いて瞬きしたら、涙の残骸がほろりと零れる。
ヒューゴは目ざとくそれをさっと吸うと、今度は角度を変えてまた唇を重ねた。
口が開いていたからか、その隙間から吐息ともに舌が押し込められ、深まる。
自分の涙の味がして、一瞬塩辛さを感じたがすぐに飛散するようになくなった。
「あ、んむっ」
割って入ってきた舌が、やさしく口内をなぞる。
いつのまにか抱擁はとけていて、ヒューゴの身体はもう光が治まっていて、彼の身体にふれることは叶わない。
――それなのに、絡めた舌だけはずっと光を纏ったままだった。
***
幽霊は寝なくても大丈夫らしいけど、暇すぎるから寝るようにしているとのことだ。
やり方は、寝るというよりスイッチを切るって感じと言っていた。
隣に浮かぶヒューゴの寝顔を眺め、ため息をつく。
ため息はやけに熱が籠っていた。
――あああ、どうしよう。
親以外の温もりを感じたのも、キスをしたのも初めてだった。
そのせいか……。
もそりと寝返りを打ってヒューゴに背を向けると、タオルケットを捲り、自分の下半身を確かめる。
悩ましいことに、ヒューゴとの行為が忘れられなくて興奮しっぱなしなのだ。
あの後の記憶があまりない。
すごかったなーなんて笑って誤魔化して、沸かし直したお湯でラーメンを作って味もわからないままかきこんだ。混乱したままお風呂にはいり、疲れたなーって作り笑いのままベッドに逃げるように潜り込んだ。
ヒューゴはずっとなにか言いたそうだったけど、今は冷静に話せそうもない。
ぎゅっと目を瞑って、深呼吸をする。
幽霊がでたら、エロいこと考えたら霊はその場を離れていくって都市伝説を聞いたことがある。
俗っぽいことを嫌うから、なんて理由までちゃんとあったけど、幽霊と淫らな事をしてしまった場合はどうなるんだ?
違うことを考えようとしているのに、ヒューゴの艶めいた顔や官能的な体がフラッシュバックして邪魔をした。
「はぁぁ……どうしたらいいんだぁ?」
どうしようもできなくて半べそだ。幽霊の隣で煩悩退散と唱え続けた。



