次の日は日曜日だから、アラームをかけることもなく眠った。
目が覚めて眠気の残る目をこすりながらスマホで時間を確認すると、お昼の十一時を過ぎている。
寝過ぎた。
ベッドの中で伸びをして起き上がると、僕の足元に浬が座っていて驚く。
「よく寝てたな。おはよ」
「え? おはよう。なんで、浬がいるの?」
「インターホン鳴らしたら、おばさんが入れてくれた」
「そうなんだろうけど、そうじゃなくて」
この家に入った経緯を聞いたわけじゃなく、なんで来たのかを聞いたんだけど。
「恵斗が『明日もして』なんて誘ってくれたから」
朝からキスをしにきたってこと? いや、もうお昼か。浬はいつから待っていたんだろう。
顔を近づけてきたから、僕は両手で浬の口を押さえた。
浬は寂しそうに眉尻を下げる。
これはまた誤解をさせてしまった。
「拒否したんじゃないよ。僕は寝起きだし、口の中が気になるから歯磨きしてくる」
恥ずかしさから部屋を飛び出し、いつもより丁寧に歯を磨いた。
自分の部屋の前に戻り、よし、と心の中で気合を入れてから部屋に入る。
浬はベッドであぐらを描いて、待っていた。
「なあ、舌入れていいってこと?」
「え?」
「だって昨日みたいに口を合わせるだけなら、口の中までそんなに気にしなくて良くないか?」
浬に指摘され、顔が茹ってしまうほど熱くなる。
そんなつもりなかったけど、そうとらわれてもおかしくない。
浬はふふっ、と小さく笑った。
「悪い。困らせたいわけじゃないんだ」
浬が腕を伸ばすから、僕は手を握った。手を引かれてベッドに乗り上げる。
柔らかな唇が触れて、すぐに離れていった。ギュッと抱きしめられる。
「また明日しよ」
「うん」
僕は指先で自分の口に触れる。昨日の舌の感触を思い出した。ぬるりと熱くて、唇とは別だけど柔らかい。
舌が口の中に入る想像をして、胸が痛いほど鳴る。
浬の腕の中は安らげたはずなのに、今は落ち着かない。
月曜日になり、学校では仲の良いグループが違うから、浬と一緒に過ごすことは少ない。
浬は派手な友達と楽しそうにしているし、僕は今井くんと山崎くんと教室の隅の方で過ごす。
昼休みに今井くんと山崎くんとお弁当を食べていると、「えー!」と甲高い叫び声が教室中に響いた。驚きすぎてご飯を喉に詰まらせるかと思った。
全員がそちらに注目する。浬が女子に詰め寄られていた。
「浬、恋人できたの?! できてもいいじゃん、私と遊ぼうよ」
今度こそ食事が喉に詰まりかけた。慌ててお茶で流し込み、ホッと息を吐く。
「みんなでなら遊ぶ。二人なら無理」
浬はキッパリと断る。
「高良くんって一途なんだね」
「相手のことがすごく大事なんだろうね」
今井くんと山崎くんの言葉に、僕は顔に熱を集めて黙々と食べる。
「じゃあ他にも呼ぶから、今日遊ぼうよ」
「今日はデートだから無理」
「じゃあ明日は?」
「明日も明後日も、毎日デート。相手が無理って言った日ならみんなで遊ぼう」
浬の言葉に女子が頬を膨らます。
「それじゃ全然遊べないじゃん! そんな束縛強い相手やめときなよ」
「俺が一緒にいたいだけ。昼飯一緒に食ってんだからいいだろ?」
浬の言葉に、女子は不満そうだったけれど、一緒にいるみんなが「諦めろ」と諭していた。
僕の心は弾む。浬が僕のことを思ってくれているって実感できて。
スマホが震えて、ディスプレイを見ると浬からのメッセージだった。
『帰ったら、俺の部屋に来て』
ニヤける顔を引き締めて『OK』のスタンプを返した。
放課後になり、一度家に帰って荷物を置いて着替える。
浬の家のインターホンを鳴らすと、おばさんが家に入れてくれた。浬はまだ帰っていなくて、僕は浬の部屋で待つ。
床に腰を下ろして、浬はまだかな、と落ち着かない。
十分ほど待っていると、階段を駆け上る音が響いた。
「待たせて悪い」
扉を開けるなり、浬が叫ぶ。息が上がっているし、汗が滲んでいる。急いで帰ってきてくれたんだ。
「そんなに待ってないよ。お友達と一緒だったの?」
「ああ、相手はどんな子だってしつこく聞かれた」
浬はスクールバックを置くと、僕の隣に腰を落とした。
「なんて言ったの?」
「ん? すげー大事な子って話した」
満面の笑みを向けられて、僕の鼓動が速くなる。
浬の腕が肩に回り、身体を引き寄せられた。こめかみにチュッと音を鳴らしてキスされる。
浬に顔を向けて、目をギュッと閉じて、顎を持ち上げた。
「また顔に力が入ってる。無理しなくていいよ」
額に唇が触れた。
そんなつもりはなかったけれど、指摘されて瞼を開く。閉じるからだめなのかもしれない。
浬を見つめて首を反らす。
「……していいの?」
「したいの」
言い終わるより速く、唇が重なる。すぐに離れて、また触れる。何度もキスを繰り返した。
学校ではそれぞれの友達と過ごし、家に帰ってから夕飯までの時間を浬と過ごす。
僕と浬が学校で一緒になるのは、図書室の当番の時だけ。
水曜日の放課後、僕はカウンターに座って本を読む。
浬は宿題をやっていたけれど、「うーん」と唸りながら書いては消してを繰り返していた。
自力で解くのを諦めたのか『後で教えて』とプリントの端に書き、僕に見せる。
僕は顔の横で親指と人差し指の先を合わせて、OKサインを作った。
浬は頬を緩めて、スクールバッグにプリントと筆記用具をしまう。
僕は本に目を落とした。制服の裾を引かれて、浬に目を向ける。
浬は僕の片手を下げさせて、カウンターの下で指を握った。
恥ずかしくて顔が熱くなるけれど、胸がいっぱいでポカポカする。
僕はそっと握り返した。
家に帰って浬のわからないところを教え、二人で宿題をやっていると、あっという間に夕飯の時間になった。
図書室の当番の時は学校で一緒にいられるけれど、家で過ごす時間は短い。
荷物をスクールバッグにしまう浬に声をかける。
「あのね、今週の土曜日は今井くんと山崎くんと勉強するから遊べない」
「遊ぶんじゃなくて、勉強すんの?」
「うん、テストが近いから」
「どこでやるの?」
「僕の部屋だよ」
浬は「わかった」と頷いた。
スクールバッグを掴んで浬は立ち上がって、扉に向かう。
そういえば今日はキスしてないな。
少しの寂しさを誤魔化すように、足先に視線を落としながら指先で唇に触れる。
僕の部屋を出る前に浬が振り返った。
「恵斗」
名前を呼ばれて顔を上げると、チュッと唇が触れた。
「また明日」
「うん、また明日ね」
手を振って見送った。
扉を閉めて、その場にしゃがみ込む。
「びっくりした。声に出してないよね?」
キスをしていないと考えていた時にされたから、心の声が漏れてしまったのではないかと焦った。
浬の柔らかな唇を思い出して、指先で自分の唇に触る。
目が覚めて眠気の残る目をこすりながらスマホで時間を確認すると、お昼の十一時を過ぎている。
寝過ぎた。
ベッドの中で伸びをして起き上がると、僕の足元に浬が座っていて驚く。
「よく寝てたな。おはよ」
「え? おはよう。なんで、浬がいるの?」
「インターホン鳴らしたら、おばさんが入れてくれた」
「そうなんだろうけど、そうじゃなくて」
この家に入った経緯を聞いたわけじゃなく、なんで来たのかを聞いたんだけど。
「恵斗が『明日もして』なんて誘ってくれたから」
朝からキスをしにきたってこと? いや、もうお昼か。浬はいつから待っていたんだろう。
顔を近づけてきたから、僕は両手で浬の口を押さえた。
浬は寂しそうに眉尻を下げる。
これはまた誤解をさせてしまった。
「拒否したんじゃないよ。僕は寝起きだし、口の中が気になるから歯磨きしてくる」
恥ずかしさから部屋を飛び出し、いつもより丁寧に歯を磨いた。
自分の部屋の前に戻り、よし、と心の中で気合を入れてから部屋に入る。
浬はベッドであぐらを描いて、待っていた。
「なあ、舌入れていいってこと?」
「え?」
「だって昨日みたいに口を合わせるだけなら、口の中までそんなに気にしなくて良くないか?」
浬に指摘され、顔が茹ってしまうほど熱くなる。
そんなつもりなかったけど、そうとらわれてもおかしくない。
浬はふふっ、と小さく笑った。
「悪い。困らせたいわけじゃないんだ」
浬が腕を伸ばすから、僕は手を握った。手を引かれてベッドに乗り上げる。
柔らかな唇が触れて、すぐに離れていった。ギュッと抱きしめられる。
「また明日しよ」
「うん」
僕は指先で自分の口に触れる。昨日の舌の感触を思い出した。ぬるりと熱くて、唇とは別だけど柔らかい。
舌が口の中に入る想像をして、胸が痛いほど鳴る。
浬の腕の中は安らげたはずなのに、今は落ち着かない。
月曜日になり、学校では仲の良いグループが違うから、浬と一緒に過ごすことは少ない。
浬は派手な友達と楽しそうにしているし、僕は今井くんと山崎くんと教室の隅の方で過ごす。
昼休みに今井くんと山崎くんとお弁当を食べていると、「えー!」と甲高い叫び声が教室中に響いた。驚きすぎてご飯を喉に詰まらせるかと思った。
全員がそちらに注目する。浬が女子に詰め寄られていた。
「浬、恋人できたの?! できてもいいじゃん、私と遊ぼうよ」
今度こそ食事が喉に詰まりかけた。慌ててお茶で流し込み、ホッと息を吐く。
「みんなでなら遊ぶ。二人なら無理」
浬はキッパリと断る。
「高良くんって一途なんだね」
「相手のことがすごく大事なんだろうね」
今井くんと山崎くんの言葉に、僕は顔に熱を集めて黙々と食べる。
「じゃあ他にも呼ぶから、今日遊ぼうよ」
「今日はデートだから無理」
「じゃあ明日は?」
「明日も明後日も、毎日デート。相手が無理って言った日ならみんなで遊ぼう」
浬の言葉に女子が頬を膨らます。
「それじゃ全然遊べないじゃん! そんな束縛強い相手やめときなよ」
「俺が一緒にいたいだけ。昼飯一緒に食ってんだからいいだろ?」
浬の言葉に、女子は不満そうだったけれど、一緒にいるみんなが「諦めろ」と諭していた。
僕の心は弾む。浬が僕のことを思ってくれているって実感できて。
スマホが震えて、ディスプレイを見ると浬からのメッセージだった。
『帰ったら、俺の部屋に来て』
ニヤける顔を引き締めて『OK』のスタンプを返した。
放課後になり、一度家に帰って荷物を置いて着替える。
浬の家のインターホンを鳴らすと、おばさんが家に入れてくれた。浬はまだ帰っていなくて、僕は浬の部屋で待つ。
床に腰を下ろして、浬はまだかな、と落ち着かない。
十分ほど待っていると、階段を駆け上る音が響いた。
「待たせて悪い」
扉を開けるなり、浬が叫ぶ。息が上がっているし、汗が滲んでいる。急いで帰ってきてくれたんだ。
「そんなに待ってないよ。お友達と一緒だったの?」
「ああ、相手はどんな子だってしつこく聞かれた」
浬はスクールバックを置くと、僕の隣に腰を落とした。
「なんて言ったの?」
「ん? すげー大事な子って話した」
満面の笑みを向けられて、僕の鼓動が速くなる。
浬の腕が肩に回り、身体を引き寄せられた。こめかみにチュッと音を鳴らしてキスされる。
浬に顔を向けて、目をギュッと閉じて、顎を持ち上げた。
「また顔に力が入ってる。無理しなくていいよ」
額に唇が触れた。
そんなつもりはなかったけれど、指摘されて瞼を開く。閉じるからだめなのかもしれない。
浬を見つめて首を反らす。
「……していいの?」
「したいの」
言い終わるより速く、唇が重なる。すぐに離れて、また触れる。何度もキスを繰り返した。
学校ではそれぞれの友達と過ごし、家に帰ってから夕飯までの時間を浬と過ごす。
僕と浬が学校で一緒になるのは、図書室の当番の時だけ。
水曜日の放課後、僕はカウンターに座って本を読む。
浬は宿題をやっていたけれど、「うーん」と唸りながら書いては消してを繰り返していた。
自力で解くのを諦めたのか『後で教えて』とプリントの端に書き、僕に見せる。
僕は顔の横で親指と人差し指の先を合わせて、OKサインを作った。
浬は頬を緩めて、スクールバッグにプリントと筆記用具をしまう。
僕は本に目を落とした。制服の裾を引かれて、浬に目を向ける。
浬は僕の片手を下げさせて、カウンターの下で指を握った。
恥ずかしくて顔が熱くなるけれど、胸がいっぱいでポカポカする。
僕はそっと握り返した。
家に帰って浬のわからないところを教え、二人で宿題をやっていると、あっという間に夕飯の時間になった。
図書室の当番の時は学校で一緒にいられるけれど、家で過ごす時間は短い。
荷物をスクールバッグにしまう浬に声をかける。
「あのね、今週の土曜日は今井くんと山崎くんと勉強するから遊べない」
「遊ぶんじゃなくて、勉強すんの?」
「うん、テストが近いから」
「どこでやるの?」
「僕の部屋だよ」
浬は「わかった」と頷いた。
スクールバッグを掴んで浬は立ち上がって、扉に向かう。
そういえば今日はキスしてないな。
少しの寂しさを誤魔化すように、足先に視線を落としながら指先で唇に触れる。
僕の部屋を出る前に浬が振り返った。
「恵斗」
名前を呼ばれて顔を上げると、チュッと唇が触れた。
「また明日」
「うん、また明日ね」
手を振って見送った。
扉を閉めて、その場にしゃがみ込む。
「びっくりした。声に出してないよね?」
キスをしていないと考えていた時にされたから、心の声が漏れてしまったのではないかと焦った。
浬の柔らかな唇を思い出して、指先で自分の唇に触る。



