モイライ来りて糸を繰る


 諸々の件が終わってようやく一息ついた、一月の終わり頃。気分転換も兼ねてまだアルバイトを続けていた陽向は、四谷と久しぶりに出会した。
 どうやらまた、この近くで仕事をする必要があったらしい。

「悠君、元気にしてる?」

 例のごとく水のボトルとタバコを買う彼に向かって、陽向はすぐに答える。

「はい。仕事も始めました」
「そっか、良かった」

 やり取りはそれだけだった。短かったが、陽向には彼の発した言葉の重さが分かる気がする。
 四谷なりの後ろめたさがあったのだろう。この件が片付いたらもう現れないと言っていた彼だが、それでもやはりどうしても、確かめずにはいられなかったのではないか。
 陽向は少し考えてから、店を出ようとしているスーツ姿の彼に言う。

「兄は、四谷さんを憎んでいないと思います。少なくとも、僕はそう思っています」

 四谷は一瞬立ち止まったが、もうこちらを振り返りもせずに店を出ていってしまった。