モイライ来りて糸を繰る


 冬の初め頃。
 紹介会社からの仲介をもとに、悠心が仕事に就いた。駅近くのショッピングモールに入っている文房具店だという。「まだ非正規だけど」と言いながら、それでも出掛ける時の顔には以前の兄が戻ってきていた。
 冬晴れのある日。陽向が帰宅すると、キッチンに珍しい匂いが漂っている。

「兄さん? 何してるの」
「早く帰ってきたから、きんぴらごぼう作ってみた。昔、母さんがよく作ってたやつのイメージ。味は保証しないけど」

 味見程度に食べてみると少し砂糖が多い気はしたものの、それほど悪くない。テーブルの向かいに座った兄は、陽向が食べる様子を気まずそうに見ていた。

「なあ、陽向」
「うん」
「俺さ、お前に何をしたのか、正直よく覚えてないんだ。でも、ろくでもない事をしたのは分かってる」
「そんな、別に」
「別にじゃないだろ」

 悠心は箸を置き、椅子に座ったまま深く頭を下げた。

「俺が壊してしまったお前の生活は、必ず取り戻す。大学の費用も、俺が絶対に何とかする。約束する」
「そんな事しなくていいよ」
「するよ。ていうか、させてくれ。迷惑掛けた家族に俺ができる事は、こんなやり方での贖罪しかないから」

 陽向はしばらくの間、黙ってきんぴらごぼうを口に運ぶ。窓の外では冷たい風が木の枝を揺らしているようだ。

「じゃあさ、とりあえず今、一つだけわがまま言っていい?」
「何だ」
「今度カレー作ってよ。兄さんの好きな中辛でいいから」

 兄はしばらくきょとんとしていたが、やがて大きく笑って頷いてみせた。