モイライ来りて糸を繰る


 四谷と別れ、自宅までの道のりを一人で歩きながら、陽向は頭の中で幾度となくその言葉を反復した。
 呪い。予言ではなく、呪い。
 日が沈みかけ、空が群青色に変わりつつある時刻の住宅街を歩いていると、一組の親子連れとすれ違う。家族でどこかに出掛けた帰りのようだ。
 不意に、あぐりと名付けられた少年の事をまた思い出した。
 マンションの階段を上って家の鍵を開ける。ボディバッグを自室のラックに掛け、手洗いうがいをしてからキッチンの冷蔵庫を開けた。作り置きで用意しておいたタッパーに牛肉とピーマンの炒め物が詰められている。
 バイトに出る前に炊飯器のタイマーをセットしておいたうえ、帰宅が予定より遅くなったので、米はとうに炊けていた。炒め物をレンジで温め、味噌汁はインスタントで用意する。
 お盆にご飯と味噌汁の椀と料理の皿を載せ、兄の部屋へと持っていく。エアコンをつけっぱなしにしてベッドサイドに水のボトルも置いているためか、今のところ熱中症にはなっていないみたいだ。部屋の机に食事を置き、リビングに戻る。
 そういえば、バイトが終わってから一度もスマホを見ていなかった。
 自室に掛けたボディバッグからスマホを取り出し、ロックを解除する。途端に、未読のメッセージが九件と不在着信が二件入っているとの通知が出た。

『バイト何時まで?』
『まだ仕事中?』
『終わったら連絡して』

 すべて辰巳からだ。今日の昼過ぎ頃からちょくちょくメッセージと着信が入っていたようだが、バイト中は基本的に消音にしているため気付かなかった。

「もしもし?」
「大丈夫か? 何か今日、いつもより時間遅くねえ?」
「あ、いや、ちょっと……」
「どうした」
「電話だと説明しにくくて」
「今からそっち行くから待ってろ。あ、飯は食ったか?」
「え、こっちに? あ、夕飯はこれから食べるつもりだったんだけど」
「じゃあちょっと時間あけてから行く」

 通話が切れてしまった。今からそっちに行くとはつまり、辰巳が自宅に来るという事だろうか。日曜の九時前に?
 混乱する陽向の胃袋が空腹を訴えて鳴き始める。ひとまず食事を摂ってしまおう。