モイライ来りて糸を繰る


 呪い。その単語が陽向の中で引っ掛かる。
 予言というのが未来に起こる出来事を前もって言葉にする事なら、呪いはどちらかというと、言った内容を現実にして誰かに危害を加える事となるのではないか。
 もしも、因果が逆だったら? 兄が未来の出来事を事前に言っているのではなく、言った言葉を現実にする力が働いているとしたら?
 あぐりという少年の霊が悠心の抱えている怒りに共感して、コントロールを失っているのだとしたら。
 陽向の全身に鳥肌が立つ。兄が口にしているのは、予言ではない。

「陽向君? ぼーっとしてるけど、大丈夫?」
「あ……すみません。ちょっと考え事してて」
「色々話したからね。お互い、そろそろ帰ろうか」

 四谷が伝票を持って立ち上がる。払いますよと言う陽向に、彼はいいからいいからと手を振ってみせた。
 店を出ると夕焼けが目に染みる。もう七時近いというのに、この時期は本当に日の入りが遅い。

「こっちでの俺の仕事なんだけどさ、多分そろそろ終わりなんだ」

 途中までは一緒だからと並んで歩きつつ、四谷はどこか言いにくそうに口を開く。

「この案件が片付いたら、もう君たちの周りには現れないよ。迷惑掛けたね、ごめんね」
「四谷さん」
「本音を言うと、四月のあの日、俺と会った時の悠君の姿が忘れられないんだ。頬が痩けて、クマもひどくて。俺はこういう仕事だから自業自得としか言いようのないクズもいっぱい見てきたけど、彼は違うよ。人の善性っていうものを信じていて、だからこそ愚かな選択をしてしまった。端から見たら彼の事を馬鹿だって言うヤツもいるだろうけど、誰もがみんな人間の良心を信じられなくなったら、冗談抜きで世界は終わるよ」

 彼はまたどこか遠くを見るような目をして、最後にそんな事を言った。