いつの間にか一学期の期末試験が近付いてきている。今回はさすがにアルバイトも休みを取った。悠心も相変わらず毎日天井か壁を見て過ごしているが、病院から帰って以降は特に異常なく生活しているようだ。このまま事態が終息してくれれば何も言う事はないのだが。
「陽向、おはよ!」
「おはよう」
昇降口から教室へと向かう途中、辰巳に声を掛けられた。平日はほぼ毎日モーニングコールならぬモーニングスタンプが送られてくるが、朝に直接会ったら普通に挨拶する。
家庭の事情もあってあまり級友たちと放課後に遊んだり休日に出掛けたりしない陽向は、友人の数が多くない。昼休みなどは辰巳と一緒に過ごしているのでそこまで孤独感を覚える事もないが、人気者の彼と仲良くしたい人間はたくさんいる。
「陽向、今日の昼休みか放課後なんだけど、ちょっと話……」
「おっす梶川!」
「よっ、西高のワンダーボーイ!」
辰巳の言葉を遮って、彼の背後から数人の男子生徒の声がする。全員明るくて発言力が強く、クラスを引っ張っていくタイプだ。陽向もあまり話した事はないが、彼らの顔と名前は知っている。
もっとも、向こうが陽向を認知しているかは分からないが。
「おう、おはよ。ワンダーボーイって何?」
「ワンダーボーイはワンダーボーイだろ。ナイフ持った強盗犯を華麗にやっつけたヒーローじゃんか」
「その通り! というわけで俺らのヒーロー君、今日こいつん家で女子校の子たちとタコパするんだけど、来るよな?」
「行かね。今日は忙しいの」
「はあー!? もう西高の空手の王子様呼ぶって言っちゃったんだけど!」
「知るかよ。自分で何とかするんだな」
つっけんどんにあしらわれているにも関わらず、男子生徒たちは特に怒ったり気を悪くしたりする様子はない。口々に文句こそ言っているものの、あくまで気楽なコミュニケーション上のじゃれ合いの範疇だ。
ああ、いいな。自分にもこんな風に、軽いノリでくだらない冗談を言いながら、他愛のない事で笑い合える友人がいれば。
そうすれば家の事も、辰巳への歪んだ劣等感も、少しは忘れられるだろうか。
朝から暗い気分になった陽向は、通学リュックを抱えてそそくさと教室へ向かう。
「あっ、おい!」
辰巳の声が後を追ってきたが、聞こえていない風を装ってそのまま教室へと入ってしまった。


