モイライ来りて糸を繰る


 こんな出来事があったのに何も伝えないというわけにはいかなかったので、帰宅してから両親に電話を掛けた。バイト中に強盗犯と出会したと伝えるとさすがに狼狽えたようだ。すぐに仕事の休みを取ってそちらに行くと言われたが、自分は別に怪我もしていないし大丈夫だから気にしないでくれと伝えた。
 一旦通話を切り、スケジュールアプリを開く。明日の日曜、辰巳が久しぶりに家に来ることになった。ゆっくり話をするなら家が一番手っ取り早いし、兄が今どんな状態か直接見てもらった方が話が早いと思ったのだ。
 コンビニのバックヤードではなるべく順を追って話したものの、我ながら到底信じてもらえる内容ではないと分かっている。陽向の説明を聞く辰巳の表情は、困惑とか混乱とか、とにかくそういう類いのものだった。ひょっとしたら呆れられただろうか。
 いや、それよりも。
 リビングの椅子に座った陽向は改めて両手の感覚を確かめる。辰巳の体に背後から抱き付いた時の感触がまだ残っていた。深く考える余裕もないまま夢中で縋り付いて、気が付いたらいつの間にか『たっちゃん』と呼んでいたのだ。