陽向が通う高校の桜に落雷があった日の翌週。
その日は祝日で学校も休みだったので、昼間にコンビニのシフトを入れていた。人によってはすでに連休に入っている者もいると聞く。だからだろうか、たまに旅行客らしい家族連れがお菓子や飲み物を買いに立ち寄るのを見かけた。
「十二連休だの何だの、いい気なもんよね。ウチらみたいなんが働いてるからアンタらは休みを満喫できるんだぞって、言いたくなるわ」
「そうですね。あ、さっきの四人家族、見ました? 下の娘さんがお菓子の袋を自分でレジに持って来たんですけど、一生懸命背伸びして、微笑ましかったんですよ。ああいうのが見られるのは休みの時期だからこそですね」
「ヒナちゃん、本当にイイ子ねえ。たまにはシフト入らずに友だちと遊んで、ガス抜きでもしないと破裂するんじゃないの」
店内に客がいなくなったタイミングで、同じくアルバイトの坂上英梨がボヤき出す。
彼女は県内の私立大学に通う大学生で、陽向より三つ年上だ。昨年の五月から働き始めた陽向は、大学に入学してすぐの四月からバイトを始めていた英梨に仕事内容を教わることもあったので、今では話しやすい先輩として気安く接するようになっていた。
「そういえばこの前、高校で火事があったんでしょ? ローカルニュースでもやってたよ」
「……そうなんですよ。あれは本当に驚きました」
「でも校舎に燃え移らなくて良かったよね。不幸中の幸いっていうかさ。あ、いらっしゃいませ」
先週の出来事を思い出していると若い男性客が一人来店したので、雑談を切り上げ仕事モードに入る。店内フロアにドライシートを掛けていた英梨が奥の床を拭きに行ってしまったので、陽向はレジに入ったまま一人で待機していた。
飲み物の棚から五百ミリリットルの水のボトルを一本取った男性客が、レジに持って来る。
「八十五番。ウィンストンキャスターの五ミリを一つ」
タバコの注文が入ったので、後ろの棚から言われた通りの商品を取る。こうやって番号と銘柄を言ってくれるのはありがたいな、とこのバイトを始めてから陽向は思うようになった。
「袋はお付けしますか?」
「いや、いい」
水とタバコをレジに通し、お会計六百五十円ですと伝える。バーコード決済を希望されたのでスマホの支払い画面にスキャナーを当て、レシートを印刷した。
「レシートはご入り用ですか?」
「ああ、いや。大丈夫」
男性客はちらりとこちらを見やってから、商品を持とうとして再び陽向の顔を見る。何か言いたげな様子に陽向が困惑した視線を向けると、彼はパッと目を逸らした。
「ごめん、知り合いに似ていたものだから。何でもないよ」
手早くタバコをポケットに詰め、水を片手に持つと客の彼は店を出て行った。
顔立ちこそ細面で整っていたものの、傷んだ金髪と下唇のピアスが少し危なげな印象を与える若い男性だった。しかし声の感じや話し方は、どちらかというとむしろ穏やかだった気がする。目尻が若干垂れていたのもあって、実際に話してみた印象はそこまで怖くなかった。
そんな人の知り合いにただの高校生である陽向が似ているとは、本当だろうか。
「ヒナちゃん、トイレ掃除用のシート、新しいのってどこに置いてあるか知ってる? 店長が保管場所変えるって言ってたけど、どこだったか忘れちゃった」
「あ、それならバックにありますよ。取ってきます」
男性客の出て行ったドアをぼんやりと眺めていた陽向は英梨に呼ばれてようやく我に返り、仕事に戻るのだった。


