窓際の特等席、秘密のエール




約束の二十分前。
俺はもう赤いモニュメントの前に立ってそわそわしていた。
もう一本遅い電車でも間に合ったけど、隼人は部活も授業も余裕をもって準備するタイプだから、
今日もそうだろうと思ったら勝手に体が動いていた。

ゴールデンウィークの真ん中、
世間は浮かれていて家族連れやカップルで駅前はにぎわっている。
屋外に出るとサンサンと輝く太陽がまぶしくて、もうそこまで夏が来ていると感じる。

あの第二グラウンドで、
照りつける太陽の下砂埃を舞い上げながらハードルを跳ぶ隼人が頭に浮かんだ。

(え、俺キモくない?人間観察ってか、最近妄想魔になってないか?引くんだけど……)

俺は赤いモニュメントを見つめながら、今日の映画のあらすじを思いだした。
大人気アニメの書き下ろしで、超能力が使える世界で、
安全な学校に敵が侵入して、まだ修行中なのに高校生が超能力で敵に立ち向かっていって……
高校生男子が好きそうな、超王道のヒーロー物語だ。

(確かに、もっちーはすごく好きそうだ)

これはネタバレしたら本当に泣きそうだな、とか考えていると、
背後から「ごめん!遅れた!」と聞き覚えのあるハスキーな声が聞こえた。

「隼人……」

「遅れて、まじごめん、電車、乗り遅れちゃって」

走ってきたのか息が上がっていて、シャツもまくり上げられている。
かぶっていただろう黒いバケットハットを脇に挟み、
手を合わせて謝り続けている。
けれど、俺は声をかける余裕もなく、隼人から目が離せなかった。

水色のさわやかなストライプシャツに、黒のハーフパンツ。
足元は白靴下に、なんかごついスニーカー。

(同じ格好しても、俺なら部活帰りの中学生だ)

このコーディネートに隼人の顔面と百八十三センチの身長が合わさると、
もうモデルにしか見えなかった。

「雪丸?ね?ゆーきーまーる!」

「はっ、え?俺また飛んでた?」

「うん、多分。遅刻して怒ってんかと思ったけど、これ違うなってさっき思った」

駅の時計を確認すると、十三時一分を指している。

「いや、こんなの遅刻に入んないでしょ」

「駄目だよ。一分でも遅刻は遅刻。ほんとごめんね。雪丸とデートだと思ったら、
服気合い入れて悩みすぎて電車乗り遅れた」

(…………)

「……ほえぇ……」

俺は思わず語彙を失い、ため息に似た間の抜けた声が出た。

「え、何、その反応……」

隼人はサラサラの黒髪をかき上げながら不思議そうにこちらを見る。

「あぁ、いや、こうやって女子は恋に落ちていくんだなって思って……。
一軍男子こえーよ……」

さっきから胸の奥がお祭りみたいに騒がしい。

「雪丸の言ってることがマジで意味わかんないんだけど」

「いや、モテメンはさらっとキュンとすること言うんだなって」

「あ、雪丸俺にきゅんとしたの?恋に落ちてくれた?」

どこか得意げで、子供みたいに嬉しそうにこちらをのぞき込んでくる。

「女の子なら、の話だよ。魔性の燕め」

「でた!久しぶりの燕呼び!雪丸が燕呼びするときは褒めてるってことだよな。
ってことはちょっとはキュンとしてくれたんだなーって思っとこ」

「な、そんなことない!」

「雪丸君?人間観察してるのは自分だけだと思うなよぉ?」

隼人は俺を見透かしたようなニヒルな顔で迫ってくる。

「ほら、行こ!絶対混んでるよね。予約しとけばよかったかなぁ?」

「確かにそうかもね。無理なら次の回でもいいしね」

「それいいね!そうしよ」

そんなことを言いながら、映画館につながる商店街を歩いていく。
人ごみでごった返すアーケードの中でも、隼人は頭一つ分抜けているから見つけやすい。

「雪丸、迷子なる?手繋ぐ?」

先を行く隼人が、今度は真剣な顔で真面目に聞いてくる。

(なんなんだよ、もう…………)

俺も高校生の男なんだけど……と言うと、それもそうかと笑っていた。