閑静な住宅街に、ひときわ目立つ真っ黒の家。
キューブみたいな外観に、シンボルツリーが一つだけ植えられている。
「飲み物持ってくるから、ちょっとだけそこに座ってて」
言われるがまま、俺は今隼人の部屋のベッドにいる。
――え、いや、なにこれ。
意味が分からなさすぎる。夢か?
俺は古典的にほっぺを摘まんでみる。
――普通に痛い。
隼人の部屋は意外にもごちゃごちゃしていた。
ベッドにはゆるキャラのぬいぐるみが鎮座してるし、机の上も参考書と漫画がごっちゃになっている。
そして……なんかいい匂いがする。
もう、心臓が口から出そうになるくらいバクバクしている。
「おまたせ。ごめんな、急に呼んで」
平然と横に並んで座ってくる。ベッドだぞ、ここ。
「いや、全然大丈夫」
本当は大丈夫じゃない。うん。それはもう全然。
「っていうか、俺が来ちゃってよかったの?決起集会?なんじゃないの?」
とりあえず、当たり障りのないことを話してみた。
決起集会のことなんて、すっかり飛んでいたのに、
いかにも気にしてます、みたいないい人アピールが自分でも痛い。
「あぁ、いいんだよ。なにかにつけ集まりたいだけだから。
先輩たち、引退前だから名残惜しいんだと思うよ。だから、俺いなくても平気」
――そうかもだけど、マネージャーは絶対来てほしそうだったのに……
と、口から出そうになったのをなんとか耐えた。
「それに、なんか……勘違いだったら悪いんだけど」
「……けど?」
彼が言葉に詰まる。
「うん……さっき雪丸、泣きそうな顔してた気がして。
だから、ちょっと気になって……思わず追いかけちゃった」
今度は自分が言葉に詰まる。
そんなことないよって言いたいのに、喉の奥につっかえて音にならない。
「それに、最近俺、雪丸に変な態度取っちゃってたから。
その自覚はあったんだけど、なんでそうなるのか、自分でもわからなくて。
ってか今もわかんないんだけど。
でも、雪丸が山瀬と楽しそうに話してるの見ると、なんかモヤモヤする。
なんていうか、大事にしてた場所を取られたみたいな気分になる。
野球の応援だって仕方ないってわかってるよ。でも、なんかやなんだよ」
隼人の顔が俺の知らない表情になっている。
観察対象だった時も含め、今まで見たことのない顔だった。
耳まで真っ赤で、視線は落ち着かなくて、それでも何かを伝えようとしている。
人間観察をしていると、たまにこんな顔を見ることがある。
それは好きな相手を前にした、恋する人の顔だ――。
「それにさ、友達にこんなこと思うなんておかしいだろ?
もっちーには欠片もそんな感情もったことないのに」
俺は今、猛烈に勘違いをしそうになってる。
しかも、俺に都合が良すぎる勘違いを。
「んー、なんかうまく言葉にできない……
何言ってんだろ俺。なんかしか言ってないや。
でも、とにかく雪丸は何にも悪くないってことを言いたかった。だから、ごめんね」
――あぁ、もう言っちゃっていいだろうか。
俺は隼人のことが好きだって。
そして、隼人も、多分だけど、俺が好きなんじゃないって。



