「ちょっ。まじで!まじで黙って!」
「先輩にため口―」
「ほんと、今そういうのいいからっ」
え、いや、いやいや。マジで意味が分からない。
なんか、避けてたじゃん。よそよそしかったじゃん。なのに、応援?
「てかさ、今からどうすんの。決起集会するんでしょ?誰かんち?それともファミレス?」
隼人は話題を逸らすように声を上げる。
すると、横でマネージャーらしき人が「私隼人んち行きたいな。こっから近いんでしょ?ダメ?」と、
鈍感な俺でもわかるくらい、あからさまなアピールをしている。
「えー、俺んちですか?今日母さん夜勤かな」
マネージャーは当然みたいに隼人の腕にしがみついた。
隼人はスマホを見るのに夢中で、気付いているのかいないのか、それを振り払う様子もない。
ズキズキ、ズキズキ……
今までにないくらい、胸の奥が痛む。
そうだよな。一軍は腕くらい普通に組むよな。
アイツらコミュ力おばけだもんな。
そう言い聞かせても、痛みが遠のくことはない。
「あ、俺失礼します……」
「雪丸君によろしくー」
「先輩っ!」
悪気のない先輩の声が駐輪場に響く。
俺は急いで自転車にまたがり学校を出た。
行きと違って帰りは下り坂なので、必死に漕がなくても勝手に進んで行く。
けれど俺は思いきりペダルを漕いだ。
――早く、ここから離れたい。
その一心でペダルを漕ぐ。
頬を撫でる風も、横を通り過ぎる景色も、何一つ目に入らないのに、
俺の頭の中は、笑わなかった隼人と腕を組まれていた隼人が、何度も何度も浮かんでいた。
「雪丸、待って!」
――は?なんで……
「雪丸!雪丸―!」
もう違いなく聞こえる距離なのに、隼人が大声で叫んでいる。
「ちょっと待って!そこで持ってて」
学校出てすぐの交差点。少し先に踏切が見える。
隼人の声と踏切の警報音が混ざり合っているのに、隼人の声だけがやけに鮮明に響く。
自転車を立ち漕ぎして、息を切らしながら近づいてくる隼人は、
夕日の中で黒い髪が少しだけ茶色に透けている。
――あぁ、きれいだな。
イケメンと夕日なんて、この上ない青春の一ページだ。
そこに、可愛い女の子がいれば絵面は完璧なのに。
でも今、隼人のそばにいるのは、この俺で。
俺は、なんだかわからないけど泣きたくなった。
「雪丸、ごめん。引き留めて。今日用事とかある?ちょっとだけ時間いい?」
彼のこめかみには汗がにじんでいる。
そんなに必死にならなくても、と思いながら嬉しい気持ちがあふれて口元が緩む。
「ど、どうしたの……」
「いや、あの……どうしたって程でもないんだけど。その、ごめん……」
「えっと……なにが?」
心臓が嫌なほど騒ぎ始める。手のひらに汗がにじんで、
思わずハンドルを握りしめる。
「なんか、勝手に噂してるみたいになっちゃって。
その、雪丸の話はしてたんだけど……
でも、変な感じじゃないっていうか、褒めてるっていうか……」
「う、うん」
「その、だから、雪ま……」
交差点でトラックが通り過ぎる。
轟音にかき消されて、隼人の声が聞き取れなかった。
「「…………」」
二人の間に沈黙が流れる。
「俺んち、行く?」
「え?」
「ちゃんと話したい」



