窓際の特等席、秘密のエール




 結局、今日の合奏は散々だった。
 本来なら絶対に外さないはずのフレーズで音を外し
「集中できてないぞ」と指摘される始末。
後輩にも先輩にも心配され、俺はもう小さく頭を下げて謝るしかなかった。

 ――もういっそ、がっつり怒鳴ってくれたらいいのに……

 それなら、俺の頭も恋だなんだってお花畑から現実に引き戻されたかもしれないのに。
 なぜか哀れみを顔を向けられるから、余計にいたたまれない。
 部員たちの話し声を背中に聞きながら、俺は一人、とぼとぼと駐輪場へ向かう。
グラウンドではまだ運動部が練習をしていたり、帰り支度をする生徒たちの笑い声も混ざっていた。

その時、駐輪場の方から何やら騒がしい声が聞こえてくる。

「いや、今年は四継マジでいけんじゃね?」

「まぁマイルよりはマシだろうな」

「俺ら中長距離は壊滅的だかんなぁ。隼人、県大会はお前にかかっている!」

「うわ、プレッシャーえぐいっすわ」

 駐輪場へ続く階段には、黒いジャージ姿の集団がたむろしていた。
背中の『Track and Field』の文字を見て、陸上部だと気づく。
男女合わせて八人くらいだろうか。

 同じ色の服を着た人間が集まると、どうしてあんなに圧が出るんだろう。

――治安が悪いな……

普通にそう思ってしまった。
視聴覚準備室から眺めるのとはわけが違う。
走っている姿はあんなに爽やかなのに、近くで見ると反社の人にしか見えない……
俺は黒い集団を見ないように、端の方をそそくさと歩いていく。

「あ、吹部じゃん。おっつー」

「ねね、壮行会の曲マジカッコよかったぜ」

 ――くそっ。
どうして一軍ってやつは知りもしない他人に気安く話しかけれるんだ……

「ねー。なんで陸部にはきてくんねーの?
コイツさ、陸上競技場にも吹部の応援欲しいってずっと言ってんの。ウケんだろ?」

「ちょっ、先輩!言うなって!」

 え、何。どういうこと?

「俺らマジで今年のリレー県大会狙ってんの。
で、二年で生意気にもエースのコイツに頑張ってもらわないとなんだよ」

「あと雪丸君?も呼んできてよ。この隼人がマジ毎秒雪丸に癒されたいとか言ってんだよ。
君、一年か二年っしょ?部長さんに交渉してよ」

「……は?」