窓際の特等席、秘密のエール




強めの雨がアスファルトを叩いていた。
どんよりした灰色の空を見上げながら、俺は傘を差して学校へ向かう。

野球部は先日の試合で負けて、春季大会が終わった。
結果は県ベスト八。学校史上最高成績らしい。

吹奏楽部の応援も区切りがついたのに、俺の気持ちは全然スッキリしない。
むしろ、雨雲みたいなどんよりしたものが胸のあたりにずっと居座ってる。
原因は分かってる。
壮行会のあとの隼人が何度も頭をぐるぐるする。
別に喧嘩したわけじゃないし、変なこと言われたわけでもない。
なのに、あの時のいつもと微妙に違う顔とか態度とかが、頭から離れない。

――今日普通に話せるかな……

雨粒が傘を叩く音を聞きながら、俺は小さく息を吐いた。
心配をよそに、教室に入ると窓際の席にいた隼人がぱっと顔を上げる。

「雪丸、おはよう」

いつも通りの笑顔だった。俺は少しだけ力の抜けた返事をする。

「……おはよぉ」

あの日のぎこちなさなんて最初からなかったみたいだ。
胸の奥に引っ掛かっていたものが少しだけ軽くなる。
席に荷物を置いたところで、後ろからもっちーが声を掛けてきた。

「野球、惜しかったなー」

「ん?」

「県ベスト八だろ?あと一勝で四強だったじゃん」

「なんでもう知ってるんだよ」

思わず苦笑する。
もっちーは机に肘をつきながら続けた。

「ま、次は俺たちサッカー部の番だけどな。今週末から予選始まるし」

「へえ、陸上は?」

 俺が尋ねると、隼人が肩をすくめた。

「俺らも今週金曜から予選。金曜は公休で学校休むよ。勝ったら土日の決勝に進む感じ」

「そうなんだ。勝てそう?」

思ったよりすぐじゃん。

「どうだろ。でも陸部も今年は結構強いよ」

隼人はそう言って笑った。
けれど、その視線はずっともっちーの方を向いている。
俺が何か言っても返事は返ってくる。でも目だけはなかなか合わなかった。

(……やっぱり、変だ)
 
コンタクトなんかして色気づいた俺に引いているんだろうか。
それとも、やっぱり隼人にとって俺は「二軍で、平凡でつまらないヤツ」で、
もっちーみたいな一軍同士で話している方が楽しいのかもしれない。

普通に会話はしているけど、でも……なんか俺を挟んで、
もっちーと二人の世界にいるみたいで、自分が置物かなんかのように思えてくる。

(寂しい……)

さっきまで話せるかどうかを心配していたくせに、
今度は普通に話せるだけじゃ物足りない。
恋って、思ったより面倒だ。
俺は置物に徹したまま、窓を叩く雨音に耳を傾けた。

金曜日、隼人はここには来ない。 授業の始まりを告げるチャイムを聞きながら、
俺は隼人のいない静まり返った前の席を想像して、早くも胸の奥をチリチリと焦がしていた。