やわらかな日差しが差し込み、春の風がカーテンをふんわり揺らしている。
視聴覚準備室は、俺――水野(みずの)雪(ゆき)丸(まる)のお気に入りの場所だ。
使われなくなった古いモニターやコード類が端に寄せられていて、
空き部屋難民の吹奏楽部員ですらあまり近づかない。
パート練習が始まるまで、俺はいつもここでひっそり音を出している。
窓があるのも気に入っていた。
校舎の端にあるこの部屋からは、第二グラウンドがよく見える。
人間観察が趣味の俺は、先週までソフトボール部の顧問を観察していた。
でも今は違う。顧問のダサいTシャツなんて、もうどうでもよくなった。
第二グラウンドの大半を牛耳るソフトボール部の群れを抜けた西の端。
五分咲きの桜が並列するバックストレートで、陸上部が種目ごとに練習をしている。
二階まで届きそうな棒高跳びのポールは揺れ、
砲丸投げの鈍い音が響く中、俺はいつも同じ場所を追っていた。
等間隔に並んだハードルを、風に乗って燕(つばめ)みたいに飛んでいく背中。
俺と同級生の牧村隼人だ。俺は勝手に燕君と呼んでいる。
「今日もきれいなフォームだなぁ……」
トランペットを膝に置いたまま、窓の向こうへ目を細める。
(燕君……一台も倒してないや)
すごいな、と思う。ハードルとハードルの間を、いとも簡単そうに三歩で走る。
けれど、その距離は尋常じゃないほど長い。
気になって調べてみたら、ハードル間は9.14メートルと決まっているらしく、
俺は驚愕した。九メートルなんて、普通に十歩以上で歩く距離だ。
それをたった三歩で詰めて、次のハードルを跨いでしまう。
――タッ、タッ、タッ。
跳ぶ。
楽器を構えてもいないのに、俺の指はなぜか彼のリズムに合わせて無意識にバルブを押していた。



