4
体育館のざわめきが静まる。
部活動壮行会で集まった全校生徒が一斉に正面へ顔を向けた。
指揮の先生が小さく腕を上げる。体育館の二階は狭く、
前のめりにならないと指揮が見えない。俺はトランペットを構え、息を吸った。
次の瞬間、金管の音が体育館いっぱいに広がる。
吹奏楽部の演奏を合図に、正面の扉がゆっくりと開き、
ユニフォーム姿の選手たちが一人ずつ入場してくる。
演奏を続けながら、その列を目で追う。
そして案の定、一番最初に見つけてしまった見慣れた大きな背中。
でも、その背中は最近少しだけしぼんでいる気がした。
この数日、隼人がハードルを跳ぶところを見ていない。
パート練習の時間になっても、一台だけ置かれたハードルの前で立ち止まり、
何度も足運びや姿勢を確かめている。
教室では変わらない。笑うし、話すし、相変わらず目立つ。
ただ、部活へ向かう時間が近づくと、肩のあたりの空気が少しだけ鋭くなる。
うまく説明できないけれど、そんな気がした。
――どうしたん?
――悩みがあるなら話聞くよ。
でも知られたくないことかもしれないそう思うと、一歩が踏み出せない。
トランペットを構える。体育館の二階は吹部で埋め尽くされている。
俺の音が届くはずなんてない。
それでも息を吹き込んだ。
黒い燕が、もう一度まっすぐ飛べるように。
そんなことを願いながら、俺は最後の音を吹いた。



