『明日の昼休み、打ち合わせしよ』
山瀬からメッセージに「わかった」と返信する。
連絡先を交換してすぐにメッセージを送ってくるあたり、
先輩たちからの圧が透けて見える。
晴れとまではいかないけれど、なんとか雨は上がっている。
視聴覚準備室から見る第二グラウンドはいつもより薄暗い。
隅のほうではハードルを一台だけ出して、ひたすらフォームを確認する隼人が見えた。
いつも先輩たちと一緒にいるのに、
今日はマネージャーと二人で何か話しながら、ひたすら一台のハードルと向き合っている。
「……なんか落ち込んでる?」
ここからは表情までは見ることができない。けれど、なんとなくそんな気がする。
俺は野球でよく使う応援歌の楽譜を譜面台に立てた。
壮行会でも、直近の演奏会でも吹かない曲。
でも、前に隼人があの曲好きなんだよねと話していた曲だ。
――パパパパパッパパパパパーッ
曇った空に突き抜けるようなトランペットの音色が響く。
――がんばれ。カッコいいぞ!
――ちゃんと応援してんからな!
――でもマネと距離近すぎないか?
――こっちを見ろ!
――好きだ、隼人!
――届け、届け!
隼人に対する感情は、もう頑張れだけじゃ収まらない。
すべてが普通の俺は、いつの間にか自分の感情さえも、
ありきたりでいつも凪いでる波のように穏やかだった。
でも今、俺の心の中は毎日が工事中のように騒がしく、
壊れたり建て直したりで大忙しだ。
「水野!関係ない曲吹いてんじゃねーよ」
「え、あ、はい。すいません」
先輩の怒鳴り声で俺は我に返った。
練習の時にふざけるなんて、以前の俺じゃ考えられない。
いや、ふざけてたわけじゃないんだけど……
「壮行会の曲合わせるから音楽室集合」
「はい」
もう一度だけ窓の外を見た。
隼人は変わらず一台のハードルと向き合っていて、何を考えているのかはわからない。
でも、ひとつだけわかることがある。
明日の壮行会でも、俺はきっと隼人を目で追ってしまう。
たぶん、その次の日も。そのまた次の日も。
――重傷だな、俺。
そう思いながら、俺は音楽室へ向かった。



