窓際の特等席、秘密のエール




まだ梅雨入りまえなのにここのところ雨が降り続いている。
明日は部活壮行会だというのに、まだあいにくの天気だ。

「水野先輩、通しするそうです」

自分のテリトリー、視聴覚準備室に後輩が入ってくる。
雨のおかげでいつもより埃っぽさが少ないこの部屋は、
なんとなく落ち着かない。

湿気で滑りやすくなっている廊下をパタパタ踏みしめるよう歩いていると、
いきなり大声とともに、尋常じゃない足音が下の階から聞こえてきた。

「ファイトー!いけー!根性見せろー!」

「もも下がってる!ハム使えハム!」

足音とともに階段を駆け上がってきたのは陸上部だった。

(あぁー、これが隼人が言ってた雨の日限定、地獄の階段ダッシュか)

横で後輩が「もも?ハム?なんで鶏肉叫んでんの?」と、
盛大にボケをかましている。

俺は思わず吹き出し、
「太もも下がってるから、ハムストリングを意識して足上げろってことだろ」
と解説してやった。

「よーい、ピッ」

階下から笛の音が響く。
そしてまた階段を駆け上がってくる。その中に見つけた、黒い燕。

(隼人……)

六人ほどの集団でひと際目を引くきれいな黒髪。
教室で見る時と違い、汗が滴り、毛束ができている。

俺たちが転ばないようにぺたぺた歩いてるのに対し、
隼人たちは無風の校舎に風が巻き起こりそうなほど全速力で走っている。
トレーニングシューズのきゅっきゅっと鳴る音が廊下に響く。

(隼人、黒い靴だ。外の靴とはまた違うんだな。
外のあの黄色い靴も、明るい隼人にピッタリだったけど、黒もいいな……)

なんて、すぐに観察癖が出てしまう。
そういえば、隼人が目に留まったのも、あの黄色の靴がめだってたからだったっけ。

「先輩、ぼーっとしてどうしたんですか?遅れますよ」

「あ、うん。ごめん」

今はもう、目立つ靴がなくてもすぐにみつけてしまう。
少し抜けた身長に、シャープなあごライン。誰もが羨ましがるであろう美脚。

(あ……、でも、なんか今日ピリッとしてる?)

「せーんーぱーい!もう行きますよ?」

「ごめんごめん!」

地震のような足音と入り乱れる息を背に、俺たちは音楽室に向かった。