「なぁどうしたんだよ、まる。何で急にイメチェンしたの?」
「だから……イメチェンじゃないって。眼鏡が壊れただけ。さっき言っただろ」
「いや、コンタクト持ってんならはじめからそうしとけよ。
お前、絶対こっちのがいいぞ」
もっちーはまだ興奮していて、机から身を乗り出して顔を覗いてくる。
俺は窓に背を向けたまま、でも右を向く勇気がない。
イチゴ大福の意味を聞きたいのに、いざ休み時間になると、なんか……。
謎の緊張に襲われた。
それにもっちーだけじゃない。クラスのやつらも、
いつも両脇の二人に群がってる廊下の女子たちも、なんか今日は俺を見ている気がする。
気のせいかもしれないけど、まとわりつく視線が俺を品定めしているみたいで体がこわばる。
(え、眼鏡とったらだめだった?キモい?)
「なぁ、隼人もそう思うだろ?絶対こっちのがいいって」
おい、やめろもっちー。今隼人に同意を求めるなと心の中で叫ぶ。
「……うん」
「だよなぁ」
(ほらぁ……気の抜けたどうでもいい返事じゃん……)
軽く傷つく。いや、結構痛い。
「……ってか反則だよな。やばい」
「えっ」
俺ともっちーの声が重なる。
「いや、ちょっとびっくりしすぎて語彙力なくなったよね。可愛すぎでしょ。
さっきイチゴ大福みたいだったよね?
走ってきたから、ちょっと頬っぺた赤くなってて。雪丸マジで可愛い」
「え、はぁ?」
思わず大きな声が出た。今度はもっちーが言葉を失っている。
「いや、ほんとほんと。眼鏡の下にこんな爆弾隠してるなんてほんと反則。
俺、めっちゃドキドキしちゃったんだけど」
「え、ちょっと、いやいやいや……」
「もっちーもそう思わない?なぁ、もっちー?」
俺の左側で、もっちーはフリーズしたまま動かない。
俺は顔が沸騰しそうなくらい熱くなっていく。
「いや……イメチェンしてあか抜けたとは思うけど……
俺べつにまるのこと可愛いとか一ミリも思わん。普通に女子のが可愛い」
((……………………))
「そ、それはそうでしょ!」
「そ、そうだよ!俺だって普通は女子の方が可愛いって思うよ?
でも、なんか雪丸は、そういうの超えてくるっていうか。俺もよくわかんないけど!」
もっちーは目を細め、ジトリとこちらを見る。
「慌てすぎっしょ……そこまで動揺されるとなんか怪しいわ……」
「あ、怪しい?」
「そんな、いや……まぁ、そうな……」
三人の間になんとも言えない気まずい空気が流れる。
(ちょっと待って、お願いだから……)
俺の心臓は、もうドキドキを超えてどくんどくん波打って暴れている。
昨日自覚したばかりの恋心をまだうまく扱えないでいるのに、
これ以上かき乱さないでほしい。切実に……
「ちょっと、トイレ……」
「おう、ゆっくりな。でも次、科学で堀センだから遅刻は気をつけろよ」
「うん」
いたたまれなくなった俺は、隼人から物理的に距離を置いた。
「はぁ、はぁ……」
ずっと呼吸していたはずなのに、今初めて息をした感覚になった。
廊下の突き当り、薄暗いトイレの個室で俺は思いきり深呼吸する。
(ひいいい、もう、なんか……なんかだよ!)
俯瞰して今の状況を切り抜けようと、何度も深い呼吸をする。
息を吸ってー、吐いて。それを何度も繰り返す。
けれど、ふと気を抜いた瞬間、隼人の広い背中がうかんでくる。
(あぁっ、もう!)
手に負えない自分の感情に無理やり蓋をして、俺はチャイムと同時に席に戻った。
目の前には、変わらない広い背中。
今まで何も感じなかったのに、かすかに香る制汗剤の匂いドキッとする。
(ダメだ……ちょっと、席替えしたい……)
このままだと、今度の中間テストは平均すらも届かないかもしれない。
それは割りと笑えなかった。



