窓際の特等席、秘密のエール




「なぁ、もう再来週中間テストって知ってた?」

 焼きそばパンにかぶりつきながら、もっちーが当たり前のことを言う。

「知ってた。でも知ってるだけで何もしてない」

 前の席からメロンパンを食べながら、隼人が言う。

(こいつら、さっきの休み時間弁当食べてたよな……?)

「まる、勉強会しようよ。お願い、数学。人助けだと思って」

「雪丸、俺英語やって欲しい」

「お前ら……」

「ってか、俺古典もヤバいんだよな」

「わかる。ってか理系なのに古文と漢文っていんのかって思うよな」

「じゃあ古典も勉強会に入れよう」

(…………)

 一軍ふたりは断られるということを知らないらしい。
俺の返事を待たずにどんどん話が進んで行く。

「おい、持田。お前理科室行かなくていいのか?」

 廊下から隣のクラスのやつが顔を出す。

「やべ、今日サッカー部の集まりあんだった」

 そういって、もっちーは半分残っていた焼きそばパンを口にくわえたまま教室を飛び出していった。

「騒がしい奴だな」

 君もね、と言いかけて俺は言うのをやめた。

「ってかさ、もっちーには何度も言ってるけど、
俺、成績真ん中ぐらいだから。ほんと教えられるようなこと何もないんだよ。
だから、本気で成績上げたいなら他あたったほうがいいよ」

 コロッケパンを開けると、ふんわりソースの甘い匂いがした。
いつもは食欲をそそるのに、今日は何故か気が進まない。
もちろん俺は早弁なんかしてないし、これが一つ目のパンだ。

 包装を開けたまま固まっていると、
メロンパンを食べ終えた隼人が俺の机で頬杖をついた。
そして、空いた左手でほっぺをツンツンしてくる。

「俺はね、賢い奴に教えてもらいたいんじゃなくて、
雪丸に教えてもらいたいの。ちゃんと先生の話を聞いて、一生懸命板書してる。
雪丸のノートは整理されてて誰が見てもわかりやすい。
そんなの、普通じゃないからね。もっと自分を褒めなさい、つきたて餅くん」

 ニカッと人懐っこく笑う、隼人。

(…………あ)

 俺はこの瞬間、落ちた。

教室のざわめきも、窓の外の声も、
世界からすべての音がミュートされたみたいに遠くなっていく。

 今日までの意味の分からないもやもやも、謎の動悸も、全部がつながって……
 そして、恋という得体のしれないものに、俺も転げ落ちてしまったんだ。