窓際の特等席、秘密のエール



 
 ゴールデンウィークも終わり、
浮ついた街が新緑の匂いを含んだ風で冷静さを取り戻しつつある。

「今日は各地で気温が上がり、夏日となる予想です」

朝のニュースキャスターが寒暖差の注意喚起とともに蘇る。
家から自転車で十分と少し。
通学時間としてはかなり短いであろうこの距離も、二十五度を超えてくると中々に辛い。

「暑すぎる……」

 山の中にあるうちの学校は、駐輪場が坂の中腹にある。
この距離だからって自転車に変速機能を付けなかったことが心底悔やまれる。
立ち漕ぎしても重力に負けてふらふらしている俺の横を、
「雪丸おはよー」と、スイスイと隼人が追い抜いた。

「お、おは、よう……」と言ってみるも、もう彼の姿はない。

(クソ……筋肉量の差か)

 脳内でハーフパンツの下から見えた隼人のハムストリングが浮かんでくる。
ムキムキすぎず、しなやかに伸びた健康な足……
結局、ゾンビの躍動感をもってしても俺の胸のざわつきは吹っ飛んでくれず、
いまだにこんな状態だ。

「うわっ!」

俺は自分の思考に動揺すると、
バランスを崩し、ついには登り切れずに自転車を降りた。

「雪丸―!坂、登り切れなかったの?軟弱だなぁ」

 太陽の下で、キラキラと輝く一軍の彼。
どんくさい友達に駆け寄り、優しく声をかけてくれる爽やかすぎるイケメン――。

「まぶしいなぁ、燕君は」

「はは、なんで今褒められてんの、俺。ほら、一緒に教室行こ」

「……うん」

 さわさわ、ふわふわ、心の中が浮き足立つ。
それと同時に脈も速くなっていく。

(…………)

 なにかに気づいたような、気づいていないような、そんな感覚に襲われる。

(やっぱり、自分のことは全然観察できないしわからない……)

 理解できない胸騒ぎを抱えながら、俺は隼人の広い背中を追った。