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構ってちゃん——それは誰かに構ってほしいという欲求が高く、ちょっかいをかけてくる人のこと。俺は今まさに、そんな構ってちゃんの被害に遭っていた。
「ときちゃん、教科書見せて」
「…………」
ほら、今日もまたやってきた。隣の席から送られてくる、あざとい視線。他の人に見せてもらえと言いたくても、崎本は端の列だから隣は俺しかいないわけで……。
「そろそろちゃんと持ってきてよ」
「うん、ごめんね」
じとりと睨んでため息を吐いたって、ニコニコと笑顔を浮かべる崎本には刺さっていない。申し訳なさそうに眉を下げながらも、なぜか嬉しそうに机を寄せてくる。前の席ではこんなことをしていなかったから、突然不真面目になったのが不思議でならない。
さすがに授業中に話しかけてくることはないんだなぁ、なんて思いながら、崎本の手元をチラリと盗み見る。やけに真剣な顔つきで黒板の内容を書いているのかと思いきや、ノートに描かれていたのは未知の物体。相変わらずちょっと癖になるというか、味があるというか。丸い物体から四本足が生えてきたところでその正体が気になって、ノートに『なにそれ』と書いて見せてみる。それを読んだ崎本はサラサラと返事を書き始めた。
『何に見える?』
『虫?』
『虫の足は六本だよ』
『急にマジにならないで』
声には出さない、文字でのやりとり。周りからは教科書のページを捲る音がする。授業はどんどん進んでいくのに、俺と崎本だけ違う世界にいるみたい。それを嫌じゃないと思っている自分がいる。最初はもっと嫌な奴だと思っていたのに、崎本は相手に合わせるのが上手だ。
『ヒント:俺の好きな動物』
『そんなの知らないよ』
ヒントになってないじゃん……って思いながらそう書けば、少し手を止めた後、崎本は小さく『じゃあ、覚えてよ』と隅っこに記す。その発言の意図が分からなくて、思わず「え?」と顔を見つめれば、真剣な瞳に射抜かれた。
『もっとときちゃんのことが知りたい』
「…………」
『ときちゃんにも俺のことを知ってもらいたい』
「…………」
『だめ?』
そんな言い方、ずるいよ……って言えたらよかった。真正面から真剣に言われるとなんだか口説かれている気分になってしまって、そんなはずないだろとバカバカしい考えをすぐに打ち消す。顔が整っている人は真剣な表情が一番映えるんだなと、場違いなことを考えて自惚れを消し去る。
何を返せば正解なのか、答えが導き出せない。くるくるとシャーペンを回して考えるけれど、時間をかければかけるほど答えにくくなっていく。プレッシャーに負けて、意味のない歪な線を書いていれば、崎本がまた何かを書き出した。
『ごめん、突然すぎたね』
『ううん』
『忘れて……』
「…………」
『とは言わないから、覚悟しておいて』
『なにを』
『俺を好きになってもらえるように頑張るから』
「は?」という声が漏れ出たのと、チャイムが鳴るのはほぼ同時だった。パタンとノートを閉じた崎本はすっと立ち上がり、戸惑う俺を置いて、そそくさと教室を出て行った。
何あれ、どういう意味? ぐるぐると頭の中で最後に見た一文が回り続けている。ぽけーっとしたまま、しばらく俺はそこから動けなかった。



