高校二年生に進級して、クラスは男ばかり。元男子校というのが大きな原因かもしれないけれど、文理選択で理系を選んだのもひとつの要因だろう。別にもっと女子がいてほしかったというわけではないけど、三人しかいないとなるとさすがに教室がむさ苦しい。
教室の隅っこで、今日も俺は外の世界を観察する。半径一メートル以内から聞こえてくるアホな会話。ボリュームを考えていない笑い声。休み時間に騒ぐ一軍男子を女子たちが冷たい目で見ていることに、きっと誰も気づいていない。ここは窮屈な世界だ。
◇◇
「違うんだって、わざとじゃないんだよ」
「えー、普通に萎えたんだけど」
「だから、それはごめんって」
化学実験室の最後方、先生から一番遠い実験台。出席番号順に座ってと指示されたから、大人しく腰掛けて授業が始まるのを待っていたのに。怠そうにやってきて俺と同じ班になった残りの三人は、もれなくクラスのヒエラルキーの頂点に君臨するヤツら。隣と斜め前の席でコソコソと昨日やっていたらしいゲームの話をする声が耳に入って、授業に集中できない。
やっぱり合わないだろうな。一度も話したことがないけれど、そう確信する。実験もひとりでできたらいいのに。目の前に置かれたビーカーを見つめながら、じわじわと、しかし確実に溜まり続けるイライラゲージが爆発しないように無心になる。
「じゃあ、早速始めようか」
はぁ、とバレないように息を吐き出したところで、そんな先生の声が聞こえてきた。他の班は「こうすればいいんじゃないか」と相談しながら実験を進めている。正直羨ましい、俺もそうなるはずだった。別に友達とまではいかなくとも、クラスメイトと試行錯誤しながら実験したかった。今は自分の時田という苗字すら憎らしい。非協力的なメンバーと一緒なんて、移動教室で席替えなんかあるわけないのにお先真っ暗すぎる。
家で教科書を見たり、動画を見たりして復習することはできるけれど、自分の手で実際に体験するのは学校でしかできない。視界の隅ではまだゲームの話が繰り広げられている。あー、もういいや。やる気がないなら俺ひとりでやっちゃおう。勉強で大事なのは誰とやるかじゃない、何をやるかだ。
チラリ、意を決して顔を上げれば俺の前に座る崎本とぱちんと目が合った。学年で一番顔が整っているという評判は嘘ではなかったらしい。ドキッと心臓が跳ねたのは、気を抜いていたせいか否か。
「お前ら、口動かしてないで手動かせよ」
ふいと先に視線を逸らしたのは崎本だった。シャーペンをくるくると回しながら、まだゲームの話に花を咲かせている田畠と関に声をかけると、二人は崎本の方に顔を向けた。
「大雅だって何も進めてないじゃん」
「俺はノート取るのに一生懸命だったの」
「じゃあ見せてみろよ、その成果を」
仲良さげに話す三人。あ、俺、いないものとして扱われた? 目が合ったという事実は抹消されて、空気だからお前なんか見えないよってこと? もしかして一緒に実験を進めてくれるんじゃないかという淡い期待が粉々に散っていく。
恥ずかしい。自意識過剰だった。そりゃそうだ、三人はいわゆるツレってやつだ。この場所で俺だけが異分子。世界はやっぱり窮屈で、これ以上広がらない。下を向いて、膝に置いた手をぎゅうっと握りしめる。最早実験なんてどうでもよかった。早くチャイムが鳴ればいいのに。こみ上げてくるものを押し込めようと、ごくりと唾を飲み込んだときだった。



