断罪悪女の嫁入り

「よくも、この國を騙しやがったな!」

「黙ってないで、なんとか言え!」


篠突く雨のごとき罵声が、激しく、そして鋭く、うら若き乙女に向かって振り注ぐ。

血が滲むほどに、両手首を縛る召縄(めしなわ)が食い込むが、これから死にゆく今の彼女には、痛みを感じる気力すら残されていない。


縄で繋がれ逃げられない状況で見せ物にされながら、大勢の民衆の前を足取り重く歩く彼女の名は加耶(かや)


腰まである絡まりに絡まった長い黒髪に、所々が擦り切れた着物――。

傷だらけの素足で歩く姿は、名家・清家(せいけ)家の長女だとは思えないほどに薄汚い。


だがなぜか、民衆の中にいる男たちからは陶然とした声が漏れていた。


その理由は、加耶はみすぼらしい格好が霞むくらいに、だれもが羨む美貌を持ち合わせていた。

長いまつ毛が伸びる切れ長の目は、どこか妖艶さをかもし出し、ひとたび視線を向けられれば、その整った顔立ちに男たちははっと息を呑む。


「もったいないな。あんなに美しいというのに。それに、まだ十九なんだとか」

「そうなのか?だったら、おれが妾にもらってやっても――」

「馬鹿言うんじゃないよ。あいつは、“幸喰(さちぐ)いの悪女”だよ!」


『幸せを喰らい、不幸をまき散らす』という意味から、“幸喰いの悪女”と呼ばれ忌み嫌われる加耶は、この國をも衰退させうる危険人物として見なされていた。


「あの女は、生きてるだけで周りを不幸にするんだから」

「そうだ!幸喰いの悪女め!」

「とっとと消えろー!」


民衆たちは、加耶に向かって石を投げる。


「……っ…!」


その中のひとつが額にぶつかり、生温かい血が頬を伝って流れた。

それでも加耶はなにも言い返さない。


だがまさか、人々から敵意を向けられ、石を投げられる最期だとは思ってもみなかった。


なぜなら、彼女は――。


「お前が、“幸喰いの悪女”だな。命により、斬首刑に処す」


闇を吸い込んだような瞳を持つこの男に、今宵殺される。

――そう思っていた。