こちら、付喪神南町奉行所っ!~新入り護り手はお払い箱になりたくない~

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「――明日から任務に戻ろうと思う」
 桜麟との夕餉の席。輝久がそう告げた時の彼女の表情は見物だった。
 驚いたように目を丸く開き、その次には呆れたようにため息が一つ、次第に眉間に皺が寄り……とうとう我慢できなかったのか、魚をむしっていた箸を止めて、ずずいっと身を乗り出してきた。
「輝久様は馬鹿ですか? 軽い怪我ではなかったのですよ。まだ早いです。大人しく寝ていてください。何だったら眠らせてさしあげましょうか。わたしの目の黒いうちは、一歩も奉行所から出しませんよ?」
「ほぉ……主に向かってそんな口をきくとはな。お前はお払い箱になりたいのか?」
 茶碗と箸を膳に置いて腕を組んで睨んでやると、言い過ぎたととばかりに桜麟が口を押さえる。
(まったく、この付喪神は……おかんか?)
 屏風との戦いで輝久が手傷を負ってから五日が経過していた。幸いにも桜麟が危惧していたほど重症ではなく、二日もすれば床から起き上がれるようになっていた。
 尤も、その二日が大問題だった。
 床に臥せている間の世話は譲らないと、桜麟が頑として譲らなかったのだ。もう大丈夫だと伝えるのに、かいがいしく身の回りの世話をしてくれる。挙句の果てには、ご飯まで食べさせようとしてくる。
 その様子を見ていた左近から「まるで新妻だね」とからかわれてしまった。桜麟は真っ赤になって撃沈していたが、輝久も耐性があるほうではない。玄亀も興味津々で、あまりのんびりしていると、あの主従は祝言の準備を始めかねない。さっさと通常の生活に戻るべきだと心に決めてから、体力の戻りも早くなった気がする。
「心配し過ぎだ。無理をしているつもりはないぞ」
「で、ですけど……」
 もごもごと口籠っていた桜麟だったが、やがて開き直ったかのように顎を上げた。
「どうせお払い箱になるのは決まったようなものです。だから、言いたいことは言わせていただきますよ。傷が全快するまで、ゆっくりと休んでください」
「俺にも休んでいるわけにはいかない理由ができたのだが……」
「だから何だって言うんですか!」
 輝久の反論に被せるようにして桜麟は続けた。
「外では影元様や凛花さん達が頑張っています。輝久様が無理をする必要はありません。それに、わたしのせいで傷を負ってしまわれたのですから、せめてわたしが出て行く日までお世話をさせてください!」
 最後は頼み込むようにして懇願してくる。この付喪神は付喪神奉行の命令は平気で破るくせに、己の主として輝久のことを第一に考えてくれている。
(……そのような顔をするな。手放せなくなるではないか)
 真っ直ぐな視線を避けるように、輝久は視線を逸らした。無理をするなと人には言いながら、彼女のほうが猪突猛進で危なっかしい。九兵衛の屋敷で少しでも駆け付けるのが遅れていたら、やられていたのは桜麟のほうだった。
 元の姿に戻り、黒焦げとなった斬妖刀の刀身。そんなものを自分は見たくはない。だからこそ、心を鬼にして計画していたことを実行に移す必要がある。
「……意外とお前は口うるさいな」
「そうですよ! 護り手よりも姑とかのほうが向いているかもしれませんね!」
 半ばヤケクソになったような言いようが可笑しみを覚える。それを、ため息で誤魔化しながら、輝久は首を横に振った。
「はぁ……仕方がない。九兵衛の件は引き続き左近に任せるか。任務に戻るのはもう少し先にしよう」
「わかっていただき、ありがとうございます」
「だが、明日は出かけようと思っていた、その予定は変えんぞ」
 そこだけは譲らんと輝久はきっぱりと宣言する。
「お前に見せたい場所があるんだ」
「わたしに?」
 怪訝そうな表情で首を傾げる桜麟。少しだけ心に痛みを感じながら、それを気取られないよう輝久は無理に微笑んだ。
「きっとお前も気に入ると思うから、楽しみにしておくのだな」