“ずるい。陽希はずるいよ”
泥中にいるように、意識がぼんやりしている。
ずるずる、深く深く沈んでいく感覚の中、誰かの声が聞こえた。
そいつは自分を罵り、啜り泣く。
ああ、もう何回目だろうか。ほとんど毎日、この夢を見る。
“陽希さえいなければ。そうすれば僕は”
ーーうるさいな。んなこと知らないよ。てかあんたは誰なんだ。毎日毎日おんなじ夢を見させやがって。
そんなことを考える間に、泣き声は大きくなる。
無理して起きようとすれば起きられる。なのに、陽希は毎回この泣き声を放っておくことができない。
痛みに快楽を見出すように、夜が明けるまでこいつに寄り添うのだ。
「はるきくん朝だよ」
目を覚ました陽希を襲ったのは、僅かな倦怠感と息苦しさ。
倦怠感はいつものこと。息苦しさの原因は、腹の上にどっかり乗っかっている幼稚園児にある。
「おはよーさっちゃん…。重い」
「れでぃに向かって失礼だよぉ!」
さっちゃんこと皐月はこの家の一人娘で、今年から幼稚園生だ。
通っている高校が遠くにある陽希より遅く家を出るはずなのに、いつも陽希より早く起きてわざわざ起こしにくる。皐月のおかげで遅刻を免れているのは事実だが、方法は少々乱暴だ。三歳児とはいえ、人に乗っかられるのは流石にきつい。
「お母さんがね、もうすぐご飯できるって言ってたよ。さっちゃんね、はるきくんを起こしにきたの」
「もうそんな時間かぁ。ありがと。手伝いに行かなくちゃ」
よっこらせ、と皐月を抱き上げ、立ち上がる。耳元で皐月がきゃーっとはしゃいだ。
下の階に降りて皐月をおろし、顔を洗う。
はるきくんねぐせついてるーと笑われたので、適当に跳ねている部分を水で濡らした。
キッチンに顔を出し、挨拶をする。
「おはよう薫さん」
もう大方おかずは作り終えたようだ。あとは皿に盛って配膳するくらいしか仕事がない。
やっぱりもっと早く起きるだなと反省して菜箸を手に取った陽希に、薫が笑った。
「おはよう陽希くん。別に手伝ってくれなくても良いのに。本当によくできた息子だこと」
「いやいや、これくらいはさせてよ」
ただでさえ、居候させてもらっている身なのだから。
気を遣わなくて良いのにーと頬を膨らませる薫さんを真似して、皐月が頬をパンパンに膨らませる。
そっくりな顔でそっくりな表情をする親子に笑みが溢れた。
「おっ楽しそうなことしてんなー」
リビングから顔を覗かせたのは、淳だ。皐月がおとーさん、と呼んで駆けより、その様子を薫がくすくすと見守る。陽希も笑みを作った。
楽園のようでありながら、気が遠くなる空間。辛くなるから、直視しないように見る。ぼんやりぼんやり、薄目で眺める。もうまともに顔が見れなくなって、どのくらいだろう。
この暖かい家庭で、俺だけがよそ者だ。
泥中にいるように、意識がぼんやりしている。
ずるずる、深く深く沈んでいく感覚の中、誰かの声が聞こえた。
そいつは自分を罵り、啜り泣く。
ああ、もう何回目だろうか。ほとんど毎日、この夢を見る。
“陽希さえいなければ。そうすれば僕は”
ーーうるさいな。んなこと知らないよ。てかあんたは誰なんだ。毎日毎日おんなじ夢を見させやがって。
そんなことを考える間に、泣き声は大きくなる。
無理して起きようとすれば起きられる。なのに、陽希は毎回この泣き声を放っておくことができない。
痛みに快楽を見出すように、夜が明けるまでこいつに寄り添うのだ。
「はるきくん朝だよ」
目を覚ました陽希を襲ったのは、僅かな倦怠感と息苦しさ。
倦怠感はいつものこと。息苦しさの原因は、腹の上にどっかり乗っかっている幼稚園児にある。
「おはよーさっちゃん…。重い」
「れでぃに向かって失礼だよぉ!」
さっちゃんこと皐月はこの家の一人娘で、今年から幼稚園生だ。
通っている高校が遠くにある陽希より遅く家を出るはずなのに、いつも陽希より早く起きてわざわざ起こしにくる。皐月のおかげで遅刻を免れているのは事実だが、方法は少々乱暴だ。三歳児とはいえ、人に乗っかられるのは流石にきつい。
「お母さんがね、もうすぐご飯できるって言ってたよ。さっちゃんね、はるきくんを起こしにきたの」
「もうそんな時間かぁ。ありがと。手伝いに行かなくちゃ」
よっこらせ、と皐月を抱き上げ、立ち上がる。耳元で皐月がきゃーっとはしゃいだ。
下の階に降りて皐月をおろし、顔を洗う。
はるきくんねぐせついてるーと笑われたので、適当に跳ねている部分を水で濡らした。
キッチンに顔を出し、挨拶をする。
「おはよう薫さん」
もう大方おかずは作り終えたようだ。あとは皿に盛って配膳するくらいしか仕事がない。
やっぱりもっと早く起きるだなと反省して菜箸を手に取った陽希に、薫が笑った。
「おはよう陽希くん。別に手伝ってくれなくても良いのに。本当によくできた息子だこと」
「いやいや、これくらいはさせてよ」
ただでさえ、居候させてもらっている身なのだから。
気を遣わなくて良いのにーと頬を膨らませる薫さんを真似して、皐月が頬をパンパンに膨らませる。
そっくりな顔でそっくりな表情をする親子に笑みが溢れた。
「おっ楽しそうなことしてんなー」
リビングから顔を覗かせたのは、淳だ。皐月がおとーさん、と呼んで駆けより、その様子を薫がくすくすと見守る。陽希も笑みを作った。
楽園のようでありながら、気が遠くなる空間。辛くなるから、直視しないように見る。ぼんやりぼんやり、薄目で眺める。もうまともに顔が見れなくなって、どのくらいだろう。
この暖かい家庭で、俺だけがよそ者だ。
