亡霊の忘れ花

基本的に、大樹に特別な力を分け与えてもらうことで、國代家の人間は霊が見えるようになり、触れるようになり、祓えるようになる。
ちなみに、國代の血を継がない者は大樹にまみえても力が備わることはない。

ちょうど十歳になったばかりの涼介は未だ霊を見ることができない。しかも今の時代、怪奇現象と呼ばれていたものはほとんどが科学的に“霊の仕業ではない”と結論づけられている。
そんなこともあってか、令和っ子である涼介は祓い屋の息子であるにも関わらず、全くオカルトを信じない質であった。
これには家族も一族の者も、ほとほと困り果てた。よりによって本家の長男がどうして!
ーーと。

しかしそれも、今日で終わりだ。
涼介の姉、霞子は背後の弟をチラリと見やり、こっそり安堵の息をついた。涼介の霊の認識に対する頑固さには霞子も手を焼かされてきたのだ。流石の弟も、御大樹様に対面すれば認識を改めることだろう。

「うわっ」
ガサガサッという音と共に聞こえた声に霞子が振り向くと、涼介が盛大に転んだところだった。
積み重なった疲労で足元が疎かになったのか、涼介の足は地面を這うツタに引っかかっていた。
「あーもう。足元よく見なさいよ」
ツタを取り外して手を引っ張り上げてやると、涼介は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
これには少しばかり霞子も同情する。
長時間不安定な山道を歩かされ、しかも目的は木だというのだから。
幼少期から霊だの怨霊だの聞かしておきながら、行き着く先はアニミズムかよ!ーーとでも思っているのだろう。気持ちはわからなくもないが、涼介のためにも、もう少し頑張ってもらわなければならない。
目的地の頂上はすぐそこだ。
霞子は涼介に背中を向けて屈んだ。
「おぶってやるから、もうちょい頑張りなさい」
これに涼介は渋面になる。
「…いい。自分で歩くよ」
首を振る涼介に、霞子は苦笑した。本当に可愛くない弟だ。