亡霊の忘れ花

「涼介!早くしないと置いてくよ」
生え茂る植物‎。一面に佇み天へと枝を広げる大樹たち。
ろくに整備されていない山道はしかしこの世のものとは思えないほど神秘的だった。
涼介は当時小学生で体力のない子供だったにも関わらず、一応は声をかけながらも姉はずんずん山道を先に進んでゆく。
──体力ゴリラのあんたとはちがうんだよ、バカ姉貴が!
心では悪態をつきながらも、口からはゼエゼエとした呼吸音しか出ない。
かれこれもう数時間は険しい山道を進んでいるというのに、一向にゴールに辿り着く気配がない。しかしここで諦めるわけにはいかないのだ。

この山の頂上には、特別な樹があるらしい。
今そこら中に伸びている木々も今まで見たことがないくらい立派なものだ。しかし、実際にその特別な樹を見たことがある姉によると、これらとは比べ物にならないほど“別格”らしい。
そして、涼介はこれからその樹に会いにゆく。会って初めて、涼介は一人の“祓い屋”として認められるのだ。

涼介の家系ーー國代家は、代々祓い屋を生業としている。死者が残した怨念などの残滓の成れの果て、怨霊などと呼ばれるそれら全般を、祓うのだ。簡単に言ってしまえばお化け退治である。
なんでも千年ほど前から続く由緒ある家らしく、多数の分家を持ち、国の“裏”ではまあまあ影響力を持つ存在らしい。

そして、涼介は正真正銘、その國代本家の長男である。國代家にはいくつかの決まりがあり、その中の一つに“十になった子どもは御大樹様にご挨拶に行かなければならない”というものがある。

晴れて今日十歳になった涼介は代々國代家を“守ってきた”とされる大樹に挨拶しにきたのだ。
「なんで…、ゲホッ、こんなこと…。そもそも、幽霊なん、て、ゲホッ、ほんとに、いんのかよ」
心身ともに疲弊した涼介のが絞り出した不平に、姉は呆れた顔をした。
「何度もそう言ってるでしょ。これから御大樹様にお会いしたら視えるようになるから。」
てかほんとにあんたもっと体力つけなさいよ、とため息をついた姉に、涼介は恨めしげな視線を返した。
ーー俺はお前らオカルト集団、ぜっっったい信じねえからな!