ソウルズ*朱雀覚醒篇

閑静な住宅街の空虚な星空を激しく揺らすかのような叫び声がこだまする。
 
 
 
「ノワァァァアアア…!!」 
 
 
ッ………ズド………………………ォォ…オン!! 
 
 
…という爆烈音と共に地震のようなグラグラとした揺れが大地を襲う。
 
 
揺れは地表を波打ち、爆風が廃屋と化した屋敷の瓦礫や残骸を一息に吹き飛ばす…


モウモウとした土煙と粉塵が辺り一面に立ちこめるのであった。
 


 
それは…正真正銘、会心の一撃と言わんばかりの影人の技が直撃したであろう事を指し示していたのであった。
 
 
すでに羅刹のいた場所には…月面のクレーターみたいな浅く広く深い、すり鉢状の巨大な穴が抉られたように空いていたのであった。


 
クレーターの中から…プスプスと黒い煙を細く上げながら古びた雑巾みたいに無残にボロボロになっている人影を見つける事が出来たのだった。
 
 
その人影の人物は…身体のあちこちを軽い火傷と擦り傷と切り傷だらけとなっていたようであった。
 
 
煙が完全に晴れると中にいた人物は…やはり羅刹であった。
 
 
息も絶え絶えに…羅刹は地面にひれ伏せるように叩きつけられていたのだった。
 
 
 
……………………………‼︎
 
 
 
しばらくすると…光透波は吹き飛ばされないように地面に腹這いになったままで、爆風の勢いがおさまるのを待つとズリズリと地面をゆっくりと匍匐前進したのであった。
 
 
静かに前進しながら…影人が作り出したクレーターみたいな巨大な穴の淵まで進み、その中を慎重な面持ちで覗き見たのだった。




 
「フハハハハハハハ…ッ!! ア~ッハッハッハッハ…!! これが…朱雀の力かッ!!!! 

………いいぜ、最高だ!!
 
何という充実した力だ…
 
そうだ…そうだとも、皆、全てが…オレの前に跪き、この力に蹂躙されるのだ!!

フハハ……ッ!!」
 
 
快楽に満ち、恍惚と言わんばかりの表情で影人は嘲笑と侮蔑の言葉を吐いた。 
 
 
影人は…ただ純粋に己の力を誇示するように、また戦いや暴力そのものを楽しむようになっていた。



それを体現するように…風前の灯火で虫の息といった状態の羅刹。


その頭を右足で…グリグリと愉悦の極みとばかりに踏み付けながら、こう言い放つのだった。
 


 
「ア…ァハハハハハッッ!! 

……なぁ、オイ、どぉ~うするよ…
 
このままじゃ…もう、ちっとも楽しめないみたいだしな、西瓜みたいにグシャリと一思いに踏み潰してやろうか!?
 
…………………ッハハ!!」




 
 
 
 
…………………………!!!? 
 
 
 
 




………その瞬間、誰かが必死に…こう叫んでいたのだった!!
 
 
 
 



「もう…いい加減に、やめなさいよォォォォォ~~~~~…ッッ!!!!!!!!!!!!」 
 
 


 
心からの悲痛なる甲高い叫び声が影人の意識を羅刹から遠退けるのだった。
 
 
その声の主を探して…影人が振り返ると…そこには!! 
 




 
……………………………
 
 
 



…………………
 



 
 
今までに見せた事が無いくらいに…とても悲しい顔をした松っつんの姿があったのである。
 


 
 
「………………フッ!!
 
ごちゃごちゃとうるせぇな!!
 
なんだ…貴様も死にたいのか……!?」
 
 
すでに影人の記憶の中からは…松っつんや他の親しい者達の存在は消えていたのである。
 
 
破壊のみを楽しむ化物と成り果てていた。


松っつんが気付くと…

影人は…すでに背後に素早く、バッと回り込み、恐ろしく冷たい声で耳元へそう囁いたのである。
 

 
「私達がわからないの、ねぇ~…もう止めましょうよ!!

こんな事………
 
瀕死だった会長だって…楓ちゃんが、不思議な能力で助けてくれたのよッ!
 
だから…だからね…若様が………
 
影人ちゃんが…戦う理由なんて………もう無いでしょッ!!!!」

 
 
その冷徹な声に驚きながらも…くるりと振り返る。


松っつんは…影人の燃え盛る灼熱の肩をシッカリと掴み…ジュ~と肉が焼ける音と細く白い煙を立てて、掌がジリジリと火傷するのも…お構いなしに真摯な瞳で邪悪な闇に染まった影人の瞳を真っすぐに見つめ、そう言ったのであった!
 



 
「………チッ、邪魔だ!
 
消え失せろ…クズめ!!」
 
 
 
影人が吐き捨てた暴言と共に…松っつんは天を仰ぐように後ろに高く高く飛び上がると、そのまま大の字にドシャリと意識を失い崩れ落ちたのだった!!
 
 
虚空を穿つような衝撃音とマグマのように真っ赤な細い閃光が…


松っつんの腹の中央をいとも容易く貫通すると…松っつんの屈強なムキムキの筋肉と内臓を焼き焦がした独特な匂いが辺りに立ちこめたのであった。
 


 
影人は…右手の人差し指の先にオーラで極小の炎の結晶をレンズ状にし、そこへ灼熱のオーラを凝縮させる。
 
 
指先へと爆発的にオーラを集中させると…それを収縮させる事でレーザービーム状にして、一気に照射したのであった。
 
 
 



 
………時が凍り付いた…!! 
 
 



 
居合わせた誰しもが呆気にとられて…スローモーションのようにゆっくりとした時間の流れを感じながら、その悲劇的な場面の一部始終をなす術なく眺めている事しか出来なかったのである………
 

…………………………………

 
 
梅ちゃんや…誰かしらの叫び声や………どこかしら涙にむせぶ声と嗚咽も聞こえてくる惨劇の中で一切の躊躇もせずに影人へ向かって鬼の形相で駆け寄る者がいたのだった。
 
 
 
「バカ…影人ォォ………………………ォッ!!」 
 
 
……………ッパシーン!!!! 
 
 
乾いた炸裂音が響き渡る。 
 
 
誰かが影人の頬を思いっきり平手打ちする!
 
 
星空には影人の愚行を罵る叫び声と頬を打つ甲高い乾いた音が響き渡るのだった。




 
…影人の目の前には瞳を真っ赤に腫れ上がらせて、今も涙に濡れてしまいそうな光透波が立っていたのだった!
 
 
 
影人は不思議だが…何とも言えぬ圧力を感じ取ると、微動だにせず、ただ静かに睨み返すだけであった。
 



 
…………………………ッ
 
 
 
 
「ねぇ…あんたはッ!!
 
本当にまもりたい人達をあんなふうに殺そうって言うの‼︎
 
あんたが…あんたが…本当にまもりたかったのは、影蔵のおじいちゃんや松っつんや梅ちゃんに、竹りんさんでしょ……
 
それから…それからさ………お姉ちゃんや、私なんじゃ無いの!?
 
 
………………………ッッ!? 
 
違うッ!!!?
 
 
ん〜この際だから…恥ずかしいけどハッキリ言うね…
 
一度しか言ってあげないんだからね………
 
ちゃんと聞きなさいよね…
…大丈夫…ちゃんと…言えるよ…私、
 
私はァァ影人の事がァァ大ァァ好きだよ~ォォッ!!
 
すごォォく…大切に想っているんだよォォ!!!!
 
それから…それからさ、影人が私じゃなくて、お姉ちゃんの事を密かに好きな事も全部、ぜ~んぶ、知ってるんだよォォッ!!
 
 
……………………………
 
 
でも…ダメ、絶対ダメッ! 

今のままの…こんな影人じゃ、私だって………お姉ちゃんにだって…ずぅぅっ~と嫌われちゃうんだからァ~~ァァッ!!!!
 
……………………うぅッ…
 
 
だ…だ、だから、だから、もう帰ってきてよぉォォ~…
 
私の愛している影人を返してよぉ~~~~ォォッ!!!!
 
ば…ば…バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、影人ォォォ~ォォッ………!!
 
………………………バカ…

 
うぇぇぇぇぇぇぇ~~~んッッ……………!!!!」
 



 
心の赴くままに…現在の素直な自分の気持ちを吐露する光透波であった。
 
 
彼女は…精一杯、強く保ち続けていた心にポッカリと穴が空いたみたいで…スーッと崩れ落ちるように、ペシャリと尻餅をついたまま、何かに駆り立てられたみたいに大声をあげて、迷子みたいに…おいおいと激しく泣きだしたのだった!




 
…………………………!?
 




 
……………………………!!
 
 



 
何もせず、何も感じずに、ただ、その光景を瞬きもせずに影人は見つめ続けていたのだった…
 
 

 
 
……………………………
 


 
 
『あなたが望んだ世界は…あなたが欲しがった力は…愛する人々を不幸にし、こんな涙に濡れた悲哀の世界を創り出す為のモノなのですか!?』
 
 
 
また…まただ…影人の頭の遠く隅っこの方から声が聞こえてくる!
 
 

 
優しく語り掛けてくる母親のような温かな声である。
 
 
 
叱られているのに…どこか嬉しく、くすぐられるような気恥ずかしさと本気で真剣に心配している心を感じられる言葉であった。
 




 
「ヴ…うわぁぁぁ………………………あっ!」 
 

 
影人は…その場に片膝を崩して地面に鬱ぎ込むと何かに怯えるように頭を抱えて叫び声を上げるのだった!
 



 
…時を同じく、完全回復とまではいかないものの、松っつんの応急手当てを済ませたばかりの楓は、影人の心を穏やかにしようと、ある術を使ったのだった!
 
 
「リラクゼーション・アロマ
〔心身を癒す芳香の風〕」 
 
 
すると…まるで…優しく肌ざわりの良い木漏れ日のベールを纏って森林の中を散歩でもしているような気分にさせるのであった。
 
 
若々しく…清々しい緑の新鮮な芳香とマイナスイオンが影人を優しく包み込むのであった。
 
 
 
「私で………私の能力で、少しでも、影人ちゃんの役に立てれば……………………良いのだけれど……………………」
 
 
 
肉体的にも精神的にも…すでに苦しい心中からもポツリと言葉をもらす楓であった。
 
 
 
隣に佇む…普段は陽気でお茶目なガゥも心配そうな面持ちだった。
 

 
「ウワァァ……………………ァァアアッ!」 
 
 
影人の叫び声が…未だ闇夜にこだまし続けていたのであった。
 
 
その様子を紅い月は、変わらずに淡い光でポカンと照らし出し続けていたのであった。