タッタッタッタッ…………
目の前に広がる見慣れた家並みと…アスファルトで舗装された狭い路地を一目散に駆ける少女の姿がある。
学校に遅刻しそうな時だって、こんなに必死に走った事なんて無いのに……
しかし…今は幾分、不思議な感覚に捉われる。
……………………………!?
それは…彼女の急いた心のせいかも知れない。
休み無く駆ける足音が無残にも廃屋と化した屋敷の前でピタリと止まった。
ハァハァ…と肩で息をしながら波打つ心臓をなだめすかせるように、肺に溜まった重だるい二酸化炭素を一気に吐き出して、新鮮な酸素を求め、大きく深呼吸をした。
早馬のような鼓動を落ち着かせようと息を整え続けながら、パッと顔を上げると………
え………………………!!!?
光透波の目に飛び込んできた光景は…彼女の日常と常識を全て打ち壊すような光景であった。
真っ黒な夜の虚空には…どこまでも赤々とした薄気味の悪い月が浮かんでいる。
その月を覆い隠す叢雲の如く…燃え盛る炎の翼を悠然と、はためかせた悪魔みたいに凶悪な顔をして…薄く笑うのであった。
光透波は…言い知れ無い衝撃を受けていた。
あいつは……………………
あいつは…いつも照れ隠しに天の邪鬼な、ツンケンとしたトゲのある素っ気ない態度や乱暴な話し方をしてはいるが…
あんな風に心の奥底から他人を見下し…嘲り笑うような冷酷非道な人間じゃない事は、なにより光透波が一番よく知っているのだった。
影人の優しさも温かさも…
例え…稼業が極道だろうとヤクザだろうとも、何であろうともである。
そんなのなんか全然…関係無いんだ!!
…無いんだから!
沸々と様々な思いが…彼女の脳裏をグルグルと忙しなく駆け巡る間にも、影人の力の暴走はいっこうに止まる事無く続くのであった。
「……………………ッ」
それを…ただ、ただ見つめている事しか出来ない自分に嫌悪し、腹立たしさと悔しさと情けない気持ちがぐちゃぐちゃと、ない混ぜになり…
言葉に出来ない感情が細く、ひとすじ…頬を涙と言う名の感情の結晶が伝わってくるのが感じられたのである。
心の温度まで伝わってきていたのであった。
…ギュュォォォオオオッ!!
羅刹へ向かって超音速で急降下して行くのが見えたのである。
影人の通過した空間にはドンという爆裂音と衝撃波…白いリング状の雲が出来ていたのだった。
影人が先程までシッカリと握り締めていた炎の剣を翼の付け根に差し込むように収めると…剣はスッと煙のように消えたのだった。
影人は素早く両手を…前方で祈りを捧げるように拳を組み合わせる。
爆発的に凄まじいオーラを放出すると…影人自身が激しく燃え上がった!!
影人は、巨大な灼熱の弾丸と化し、烈火の閃光を放つ…さらに速度を増して羅刹へ向けて一直線に突撃するのであった。
…………………な………!?
「グワァァァァ~~~ッ!
あ…あ、あ、あんなの、まともに食らっちまったらオレ様だって一瞬で焼け死んじまうぜッ!?」
窮地に追いやられ…顔面蒼白の羅刹。
筋肉馬鹿で単細胞の彼とは言えども…何か手は無いものかとピーマンの種くらいしか無い脳みそを捻りに捻って考えるのだった。
あわてふためく中でも、パッとひらめいたのは…今までは攻撃一辺倒の戦闘思考だったので、一度も使った事の無い防御の術を思い出し、とっさに使う事にした。
「…………………ぐぅッ!! 上手くいけよッ………
ひ…ひ、翡翠風障壁ッ!!!!
(ひすいふうしょうへき)」
羅刹は…影人が突撃してくる上空に向けて、万歳をするように両手両腕を頭上にかざして残っているオーラを極限まで集中して解き放った!!
…放たれたオーラは翡翠色に輝いた。
その輝きが何かを形作っていくのである。
そうして形作られていく…それは厚さが1メートルくらいあり…
5メートル角くらいの大きな四角い障壁となり…羅刹の前に出現する。
……………………………!!
「………ふッ、雑魚め!!
今更、どうあがこうが死ぬだけの運命…ッ!!
俺を見くびるなよ……!!」
吐き捨てるように…影人は言い放った。
………カッ………………!!
その瞬間…ついに影人の攻撃が轟音を鳴り響かせて、羅刹に炸裂したのだった。


